目が覚めたらすぐカーテンを開けて一喜一憂するのが日課になった。
眩しい朝日を見て今日はいい天気だと爽やかな気持ちになっていたのはもう過去のことで、今じゃ空が暗ければ暗いほど、いっそ既に雨模様だと目が冴える。
今日はカーテンを開けるまでもなく、目覚まし時計を止めると雨の音が聞こえてきて、てるてる坊主を逆さに吊るした甲斐があったなと思う。
我ながら子供っぽいことをしているとは思うけど、それで雨の日が増えるのなら本望だ。

『おはようございます
 雨ですね、今日も電車ですか?』

枕元の携帯を開いて、カチカチとボタンを押した。
メールは簡潔に、クエスチョンマークを含めて。
そうしたら相手が返信しやすいんだって、クラスの子に教えてもらった通り実践している。本当は毎日だってメールしたいけど、荒北さんの負担になっても悪いから雨の日にだけ。
送信ボタンを押してからベッドを出て、ハンガーにかけた制服に手を伸ばす。着替えをしている間に携帯が震え出して、結びかけた紺のリボンから手を離してそれを掴んだ。

『オハヨ
 もち電車、今日結構降ってんな』

携帯を開いて見ると荒北さんからのメールで、今日は返事がすごく早い。なんかリアルタイムで会話してるみたいだと思うと顔が緩む。しかも今日の荒北さんは電車通学、タイミングよく出会えたりしないかなぁ。

『今日雨すごいですね
 やっぱり電車ですか、一緒の電車だといいな』

なんて打ち込んでみたものの、こんなの送ったら会いたいのがバレちゃうや。消去消去っと、クリアボタンを押したつもりなのに画面の中で紙飛行機が飛んでいく。

「えっ、うそ...」

慌てて送信履歴を開いて確認すると、そこにはしっかりその文面が残っていた。
間違って送信ボタン押した?どうしよう...

「千歳、起きてるー?ご飯出来てるわよー」
「お、起きてる!すぐ行くっ」

お母さんに返事を返し、携帯を机に置いた。
鏡の前でリボンを結んで、あぁもう上手く出来ない、私は今の失態に動揺し過ぎてる。
ちらちら携帯を見るけど返事はこなくて、いつもなら家を出るまでそこに置きっぱなしの携帯を、今日はスカートのポケットにつっこんで部屋を出た。
まずはトイレに洗面所、顔を洗ってうがいして、髪を整えてからリビングへ。おはよう、とお母さんに声をかけてから食卓につき、準備されたトーストに齧り付く。
ポケットの中の携帯はまだ鳴らない、気が気じゃないのにTVから聞こえる天気予報だけは耳がしっかりキャッチする。
今日は午後から雨が上がるんだって、じゃあ帰りは荒北さん自転車で帰っちゃうかな...
少し落ち込みながらTVを見ていると、天気予報から芸能ニュースに変わってすぐ、ポケットの中で携帯がブルブル震えた。咄嗟にポケットからそれを取り出して受信通知を見る。荒北さんだ!

『今日は部活ねーし、合わせれるけど
 何時の電車?』

恐る恐るメールを開くと、画面にはそう書いてある。
うそだ、私、夢見てるのかも。

『帰りはいつも女性専用車両の電車なので、
 前と同じ時間です』

朝食を食べることは一旦放棄して、
両手を使って文字を打ち込む。

「千歳、ご飯中に携帯は、」
「ごめんなさい、わかってる、でも緊急事態なの!」

送信ボタンを押して画面の中の紙飛行機を見送って、深く長く息を吐いた。鼓動が速くなっていく、ご飯なんて食べてる場合じゃない。
ドキドキしながらそのまま携帯を見つめていると、すぐにメールが返ってきた。

『了解』

それはたった2文字の返信だった。
なのに、こんな嬉しい2文字は多分この世に無い。
思わず席から立ち上がって、両手で携帯を握り締めた。お母さんが怪訝そうな顔して私を見てる。
大丈夫だよお母さん、もうご飯中に携帯触ったりしないから。
ポケットに携帯をしまって椅子に座り直して、お皿に戻したトーストを頬張った。さっきまで味のしなかったトーストが急に香ばしく甘く感じる。
そうだ、あとで荒北さんに午後には雨が止むみたいですってメールしなきゃ。

「ねぇお母さん、昨日の話なんだけどーーー」



AとJK 3-2
飛んでった紙飛行機 / 2017.08.25

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