車が動き出してすぐ、道が上り坂になる。
高くなってく視界に見えたのは、低い防波堤が途切れた先、浜辺になったそこに穏やかに揺れる波だった。
坂をぐるりと周るように高台へ登っていって、徒歩15分じゃなくて徒歩25分の間違いだったんじゃねぇのとか思ってる間に目的地である宿に着く。
民宿みてェなのを想像してたのに、車を下りて見てみれば白のコンクリ壁がそびえ立っていて、宿っつーよりこじんまりしたホテルって感じだ。
何かの間違いじゃ、と宿の入り口を見たが、そこは"箱根学園御一行様"の看板が掲げられている。
輪行袋だけそこに置かせてもらって、頭を下げる従業員の横を通って中へ進むと一人一人にルームキーが手渡され、各々着替えて入り口に集合だと監督が言う。
部屋番号が書かれたやたら長い透明のアクリルキーを握り締め、オレ達は困惑の表情を浮かべながらお互いを見た。
合宿と言えばボロめの旅館で全員同室だろ、こんな洒落た鍵なんか見た事ねぇよ。
深く考えたってしょうがねェし、インハイメンバーのみの合宿だから特別待遇なんだろうと自己完結して、言われた通りあてがわれた部屋へ向かった。

階段を上りきって302の扉を開けると正面の窓に海が見える、いわゆるオーシャンビューってヤツだ。
広くもなく狭くもない部屋の中にはベッドとTVが乗った机、それから窓際に一人掛けのソファと楕円のサイドテーブルがある。
肩に下げてたエナメルバッグをソファの上に放り投げ、中からサイジャ一式引っ張り出して、さっさと着替えを終わらせた。窓の外を覗き込みつつふと視線を横にずらすと、宿が建つこの高台から浜辺に向けて長い階段がおりている。
こっから直で海水浴が可能ですってか?いたせりつくせりだなオイ。あ、この階段使えばフェリー乗り場から徒歩15分行けっかもって今そんなことどうでもいい。
残念ながらオレらの目的は海水浴じゃなくチャリ乗ることで、あーぁ、こんなに綺麗な海目の前にして泳ぐでもなくペダル回すたぁ、どうかしてんな。
なんて、ンなこと言ったら福チャンにどやされちまうぜ。ハッ!と自嘲気味に笑って海に背を向ける。
早くチャリに乗りてェって思ってる、
オレが一番、どうかしてんよ。



真夏の亡霊 3 / 2017.08.24

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