インハイメンバーを決めるトーナメントが始まって、部内はピリピリしたムードに包まれていた。
50数名の部員の中からたった6人しか選ばれない無慈悲なトーナメント、昨日までの味方は今日の敵なのだから、そういう空気になってしまうのも仕方のないことなのかもしれないけどーーー

*

AからFの6組の分けられたトーナメント戦も残すところF組決勝だけになって、あと30分もすれば最後の戦いの火蓋が切って落とされる。
レースの準備に追われている私は、室内練習場から聞こえるローラー音を聞きながら、バタバタと忙しなく部室棟周辺を走り回っていた。
先日行われたA組からD組のトーナメントでは予想通り3年生の福富主将、東堂副主将、荒北先輩、新開先輩が勝利を収め、E組では3年生を破った2年泉田くんのメンバー入りが確定した。
残り1枠を決める予選F組はいわゆるクライマー組で、シードだった3年山内先輩を負かして決勝に進んだのは例の銀髪のアイツだった。
小学校から一緒だっていう泉田くんがメンバーに選ばれてからの黒田は一層気迫に満ちて、決戦を控え一人部室でストレッチしてる黒田は体育祭でバトンを貰う直前の、あの一点集中した真剣な姿を彷彿させる。
そんな黒田に対するのは1年生真波山岳、これでもし真波くんが勝てば、箱学史上初の1年生レギュラーが誕生することになる。
いつも勝手に山ばかり登りに行ってあまりデータが取れていないけど、今日走るクライマー向けのAコースの過去一度だけ取れた真波くんのタイムは1年生とは思えないほど速かった。
山神・東堂先輩のような天性のクライマー、真波くんの力は計り知れない。そんな真波くんを相手にして、はたして黒田は勝つことが出来るんだろうか...
って、どうして私が黒田の心配なんか!
長く一緒にいすぎたせいで情でも移っちゃったのかな。

「黒田、レース用にボトルいる?」
「いらねぇ」
「じゃあ今しっかり水分取っとかなきゃだね、
 はいこれ」
「ん、」

開けっ放しの部室の扉を一応コンコンとノックして、その中に足を踏み入れる。不要になったレース用のボトルを黒田に差し出すと、黒田は言葉少なにそれを受け取ってゴクゴク飲んだ。

「そういえば真波くんまだ来てないらしいけど...
 黒田不戦勝になったりしてね」
「んなワケあるかよ。あったとしても、
 そんなんでメンバーになるとかオレが納得いかねーし
 どうせギリギリに来んだろ真波は」
「わーカッコいい黒田くん、流石言うことが違うわぁ」
「思ってもねーこと言うなバカ、
 勝ってインハイメンバーになんなきゃ意味ねーんだよ
 ...オレは、勝つんだ今日、絶対」

黒田しか居ないのに、部室内の空気が重い。
さっきまで鬼気迫る形相をしていたはずの黒田が急に神妙な面持ちになる。いつも通り嫌味を言ってみたっていうのにキレのないツッコミで、そのうえ黒田の表情は変わらなかった。
なんなの黒田、緊張してんの?らしくない。

「...もし黒田がインハイメンバーになれたら
 私、黒田の言う事一個だけ、聞いてあげる」
「...は」
「その代わり!
 なれなかったら黒田が私の言う事聞く、どう?」

そんな黒田を見てられなくなって、突拍子もない言葉が口から出てしまった。黒田を鼓舞する為に思わずそう言ってしまったけど、これって何だか墓穴を掘ってるような気がする。

「悪かねぇ、
 けどそれお前の負け確だけどいいのかよ?」
「ばーか、
 そういうことは真波くんに勝ってから言いなよね」

ふっと緩んだ黒田の顔に、いやらしい笑みが浮かぶ。その顔むかつく、だけどそれでこそ黒田ってもんでしょ。

「黒田、有言実行!」
「っは、当然!」



モノクロ*ノーツ 08
そんなの、らしくない / 2017.08.19

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