投げ掛けられる質問に答えてたらついチャリの話ばっかりしちまって、15分の待ち時間なんてあっという間に過ぎ去った。
生温かい風と一緒にホームに目当ての電車がやって来ると、白崎チャンがベンチから立ち上がって、じゃあ私はこれで、なんて言うもんだから、

「え、一緒に乗るんじゃねェの?」

なんでかオレはそう思ってて、それが口に出ちまった。あ、そういや女性専用車両に乗るからっつってたな。
でっかい目まん丸にした白崎チャンはどうしようみたいな顔してる。そりゃそうだよな、オレ女性専用車両乗れねーし。
でもここでサヨナラするより、どっちかが降りたらサヨナラのほうが合理的っつーか、単にオレがもうちょっと白崎チャンと話してたいだけなのかもしれねェけどさ。

「えっと、じゃあ...
 もう少しだけ、聞かせてもらってもいいですか?
 荒北さんの自転車の話」

少し考えて、揺れる黒髪を手で押さえながら白崎チャンは柔らかく微笑んだ。社交辞令なんだろうが嬉しいこと言ってくれちゃって、今時こんな女子高生いんのかよ、信じらんねェ。
うちの妹だったら絶対こんなこと言わねぇな、ふと実家の家族を思い出す。あいつだったらキモいだとかウザいだとか言うに違いねぇ。ちったぁ可愛げのあること言ってみろってんだ、白崎チャンの爪の垢を煎じて飲ませてやりてぇよ。

「...荒北さん?乗らないんですか?」

どんより曇って燻んだ風景のなかで一際目立つ真っ白で真っさらなその姿に一瞬目を奪われて、白崎チャンに名前を呼ばれハッと我に返る。
見れば電車はもう出発する寸前で、急いで目の前の車両に飛び込んだ。

「わり、ボーッとしてた
 白崎チャンどこで降りんの?」
「富士丘です」

白崎チャンが言った駅は確かオレが降りる駅の次の駅。
オレが降りた後たった1駅とはいえ普通車両に乗らせるなんて危なっかしくて見てらんねー、たまたま乗った車両が女性専用の隣だったのはラッキーだ。
夕方のラッシュで座席は大体埋まってて、白崎チャンくらいは座らせてやりたかったがそうもいかず、しょうがねぇから女性専用車両に繋がる扉に近い位置に陣取って吊り輪を握った。
並んで立つと思ってたより小柄な白崎チャンは吊り輪に掴まるというよりぶら下がってるようにも見える。言葉を発するたびに下からオレを見上げてくるクリックリの黒目を何となく直視出来ずに、オレは車窓を流れる景色ばかり見ていた。
それでもたまに白崎チャンを見下ろすと、チャリの話しかしてねーし面白くもないだろうに、退屈そうな顔ひとつせず真剣に、時折ふっと顔を緩ませながら、白崎チャンの視線はずっとオレにある。
遊んで欲しい時のアキチャンみてぇ、って犬と一緒くたにすんのもアレか。
思わずその形のいい丸い頭を撫でてしまいそうになる。あぶねー、ンなことしたら痴漢野郎と同レベルになっちまう。
あれやこれや話しながら、下ハンの説明をし始めたところで車内アナウンスがオレが降りる駅の名を告げた。

「あ、オレここで降りっから
 白崎チャン、隣の車両移動しろよ?」
「はい、あの、荒北さん...」
「ン?」

ここで降りるだろう乗客がそれぞれ下車準備を始めだす。オレもなんとなくリュックを肩に掛け直して、何か言いたそうな白崎チャンを見た。

「連絡先、聞いても、いいですか...?」

一度目を伏せてから、またオレを見上げる白崎チャン。ほんのり頬がピンク色になってんのは気のせいか、ンな顔されっと勘違いしそうになっからやめろよなァ。

「あーうんいいヨ、LINEでイイ?」
「LINEは私やってなくて、
 というか出来なくて、機種的に...」
「ガラケー?」
「...これ」

白崎チャンが鞄のポケットから自分の携帯を取り出すと、おずおずとそれをオレに差し出した。手のひらの上に乗っかってるそれは最近じゃもうあんま見ねぇ機種で、

「ハッ!らくらくホンかよっ...!」
「笑わないで下さい....」

ンなの使ってるヤツ初めて見たヨ!
笑うなってのは無理な話だ。
中学のときから持たされてる携帯でって必死に弁解してくる白崎チャンの顔はどんどん赤くなっていく。そりゃLINE出来ねーわ、らくらくホンじゃ。

「わり、まさかンな携帯出てくると思わねーからァ...
 手ェ出して白崎チャン」

ひとしきり笑って胸ポケットに引っ掛けてたボールペンをつまみ出し、差し出された白崎チャンの手を取った。
速度を落とした電車が駅に到着して、ここで降りる乗客が乗降口に列を作り始めている。やべ、時間がねぇ。
オレは急いで白くてちっちぇ手の甲にアルファベットを書き込んで、ペンを胸ポケットの中に戻した。

「これオレのメアド、あとで送っといてヨ。
 んじゃな、気をつけて帰れよォ?
 ...あ、飴ちゃんあんがとネ」

白崎チャンの返事を聞くヒマもなく、まくし立てるようにそう言って、降りていく人の波に乗って電車から降りた。
扉が閉まってゆっくりとまた電車が動き出す。
振り返って車内を見たが、人影に隠れてちまって白崎チャンの姿を見ることは出来なかった。
ちゃんと専用車両に移動できてっかな...
オレはホームに突っ立ったまま、走り去る電車を見送った。



AとJK 2-7
今時そんな / 2017.08.01

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