春が終わって夏が始まる一歩手前の5月下旬、今年もこの季節がやって来た。
青い空、眩しい日差し、響き渡る歓声にほとばしる汗。
年に一度のTHE 青春!と言わんばかりのその行事を私はとても楽しみにしていた。運動が得意だからとかそういう理由ではなく、まぁ多少それもなくはないけど純粋に心躍ってしまうのだ、体育祭とかいうヤツに。
今年は赤いハチマキを頭に巻いて、高い位置で髪を結って闘志溢れるポニーテールを作った。
全員参加の競技を除けば通常出場する種目は大体一人一種目。二種目出るのは少数で、なのに私と同色のハチマキを首に下げたむかつく面した銀髪は三種目出場することになっている。
さすが運動エリートって厭味ったらしく言ってみたら得意げに笑みだけ返されて、なんか無性に腹が立った。
同じチームとはいえ絶対応援なんてしてやらない!
そう心に誓う、私なのだったーーー

*

プログラムはつつがなく進行し、残るは最終種目の三色対抗リレーのみとなる。各競技は盛り上がりを見せ、特に騎馬戦や棒倒しなんかは声援を送りながら見ているだけでも楽しいものだった。
現在の各組の得点は赤組240点、青組250点、白組230点とそれぞれ10点差ずつという接戦を極める展開。最終種目を制した組には50点が与えられ、今年の体育祭の勝者となる運命の一戦だ。
各学年男女2名ずつの三色対抗リレー赤組選抜チームに選ばれた私は入場門の前で今、燃えている。誰もが敬遠しがちのトップバッターに立候補するほど、燃え滾ってる。去年はここで負けて優勝を逃して、とても悔しい思いをしたから尚更に。

「今年は絶対勝つ!負けたら許さないから!」
「はっ!負けるとか、ねーよ!」

同じく選抜チームに選ばれて、更に何故かアンカーという大役を任された黒田を一喝し見上げると、隣に並んだそいつは自信たっぷりな顔して体操服の袖を捲り上げた。
まーたこの顔だ、すかしちゃってムカつく!
でも味方のアンカーだと思えば心強いといえば心強いかな。今仲間割れしてもしょうがないし、ここは私が大人になって、

「張り切り過ぎてコケんなよ白崎?」
「なっ、そんなヘマしないし!
 黒田こそバトン落としたりしないでよね!」

前言撤回、やっぱムカつくもんはムカつく!

『 三色対抗リレー、選手入場です! 』

会場アナウンスに促され、そのまま黒田と別れて入場門をくぐった。
三色対抗リレーは各組男女6名ずつ、計12名で競われる。トップバッターは女子、次は男子、男女交互にトラックを一人半周ずつ走る。走行順は学年関係なく各組自由に決められて、だから私がトップバッターだったり、2年生のくせに黒田がアンカーだったりするわけだ。
南側のスタート位置に女子、北側のスタート位置に男子、組毎に並んでスタートを待つ。
第1走者の私は早々にトラックのスタートライン前に陣取って、軽くそこで伸びをした。応援団の三三七拍子と箱学生の声援が飛び交う、いい緊張感だ。係の先生から赤いバトンを受け取って、クラウチングスタートの体制を取る。

『 位置について、よーい... 』

パンッ!というスターターピストルの音がすると同時に地面を蹴った。
わぁぁっと沸き立つ歓声に押されるように、全力で
コースを走る。スタートダッシュは上々、コーナーを曲がって最後の直線、ぶっちぎりとはいかないものの一番乗りで私は第2走者へバトンをパスした。

「っはぁ...はっ...」
「コケずに済んだな、白崎」

走り終わって膝に手をつき息の上がる私に、順番を待つ黒田がそう言う。
ちょっとは労うとかないわけ?って言おうにも、流石に全力疾走後じゃ声が上手く出なかった。
どうせまたあの澄まし顔してんでしょ?
つくづく腹の立つヤツ!
息を整えて応援を、と顔を上げようとしたその時、グラウンドに悲壮な声が響いた。トラックを見ると選手の一人が地面に膝をついている。

『 あーっと!赤組第3走者、転倒ー!大丈夫かー!?』

大丈夫なわけあるか!
心の中でそう突っ込んで、立ち上がって再び走り出したチームメイトにエールを投げた。だけど既に他の組は第4走者にバトンを渡していて、赤組だけ大きく遅れを取ってしまった。
落胆する赤組面々。
気持ちはわかるけど走者は全部で12人、諦めるにはまだ早い、っていうか諦めたくないよ私は!

『 大きく遅れを取った赤組、
 徐々に差を詰めてきてはいますが
 依然トップは青組、続いて白組!
 バトンは第11走者に渡ります!』

精一杯声を張り上げ赤組に声援を送って、ついにアンカーにバトンが渡る時が来る。屈伸したり手足を振ったり、出番を待つ黒田は真剣な顔になっていた。

「黒田、有言実行!」
「誰に言ってんだバーカ、当然!」

青と白にバトンが渡って、黒田もレーンに入るとバトンを受け取る構えをしながら私に言った。
テイクオーバーゾーンぎりきりで赤のバトンを受け取って、黒田が本気で走り出す。
アンカーだけはトラックを一周走る。その間に先を行く2人を抜かなきゃ、優勝は無い。

『 今バトンが渡りました赤組アンカーは、
 本日クラス対抗リレー男女混合リレーで会場を
 沸かせました2年黒田雪成選手!速い、速い、
 三色対抗アンカー大抜擢も納得の速さだー!』

みるみるうちに差を詰めて、2番手の白組を捉えた黒田はアウトコースから陸上部の白組アンカーを抜き去った。一層観客が沸き立って、残りは半周、あとは青組を追い抜かすのみ。
コーナーを抉りこむように走る黒田が差を詰めて、勝負は最後の直線で決まる。青組はもう目と鼻の先、応援なんかしてやるもんか、黒田の応援なんか...

「いけー!抜かせ黒田ぁー!」

気付けば私はそう叫んでて、まっすぐに駆ける黒田の鋭い眼光がこちらを見た気がした。

『 一着は赤組黒田選手!
 総得点290点となり今年の優勝は赤組に決定です!』

真っ白なゴールテープを切ったのは、赤のバトンを高く上げた黒田だった。劇的大逆転にグラウンドは今日一番の大歓声に包まれる。
もちろん勝利に貢献した私たち選抜チームの感激はひとしおで、ゴールライン前に集まっていた赤組選抜メンバーは手と手を取って勝利を喜ぶ。

「きゃー!やったー!やった勝った黒田ぁ!」
「...はぁっ...負けるとか、ねーつったろっ...」
「凄いっ!勝った!やったね黒田!」

一位の旗を持って帰ってきた黒田は、赤組の面々にもみくちゃにされながら、歓喜で黒田ムカつくとかすっかり忘れてテンションのふりきった私の前でニカッと笑って右手を上げる。意図を察して私も手を上げ、パシンッといい音を立てハイタッチをした。
振り下ろされた右手がそのままこちらへ伸びてきて、黒田の腕が私の肩を包み込む。引き寄せられて一歩二歩、顔が黒田の胸にぶつかった衝撃で我に返った。
な...?何これどういう状況?

「...あ、の、黒田っ...」

私が声を掛けると、やっと黒田も我に返ったのか、素早く身体を離すと驚いたような顔して私を見た。
いや驚いたのはこっちだし!
なんで突然、だ、抱きつくみたいな、意味わかんない。
黒田の顔が見てられなくて、私は黒田から視線を逸らしてしまう。

「バーカ意識すんな、こんくらいで」
「なっ!してないし!バカ!バーカ!セクハラ黒田!」

カッと顔が赤くなってしまったのは怒っているからで、黒田を意識しているわけではない、断じて。
選手退場の号令がアナウンスされ、退場門へ駆け足する黒田の背中を追うように、私もまた退場門へと走り出す。勝利の余韻に浸っていたはずなのに、黒田のせいで台無しになってしまった。

少し見直したのはなかったことにしよう、
私はやっぱり、黒田が嫌いだ。



モノクロ*ノーツ 04
大接戦の体育祭 / 2017.07.25

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