ざめわめくホーム、電車の居ない線路には目でぎりぎり見えるくらいの小さな雨粒が降っている。
頭上にある屋根の切れ目から大きな水滴が落ちてきて足元で弾けて消えた。
目当ての電車が来るまで15分、まさか荒北さんと一緒に待つことになるなんて。
さっきの電車に乗るだろうと思って油断してた、この15分の待ち時間に私は何を話せばいいんだろうか?
荒北さん目撃談はもう話してしまったし、これ以上の話の種なんて持ち合わせてない。どうして今こんなことに、想定外の嬉しい展開に舞い上がっててすっかり忘れていたけど、そういえば私、今日体育の授業で大汗をかいたような...
制汗スプレーがちょうどきれてて、何かあるわけでもないしまぁいいかってタオルで汗を拭っただけなんだった。
あぁこんなことになるんなら、私の貸してあげるよってちーちゃんが差し出してくれたスプレーを借りておくべきだった。
時間を巻き戻せるなら巻き戻したい、こんな近距離に荒北さんがいるのに、こいつくせーな、なんて思われてたらどうしよう。
そんなことを頭の中でぐるぐる考えていると横からプシッと炭酸が漏れる音がして、荒北さんは青い缶のボトルを口に運んでごくごくと飲み干していく。
炭酸があんまり得意でない私は、そんな飲み方をして食道が痛くないのかなとか、飲んだ後にげっぷが止まらなくならないのかなとか思いながら彼を見ていた。

「ン、白崎チャンも何か飲むゥ?」

視線に気付いた荒北さんが、ホームの中程に設置された自販機を指差して言う。
そんなに物欲しそうな顔をしてたのかな私は。

「あ、ちが...大丈夫です、
 炭酸ごくごく飲めるってすごいなって見てただけで」
「炭酸苦手ェ?」
「飲めなくはないけど...あんまり得意ではないです」
「うまいのに勿体ねーな、オレは大体いつもこれだヨ
 さすがにチャリ乗った後はスポドリだけどォ」
「あの自転車ってロードバイク、ですよね?」
「そォ、自転車競技部なのオレ
 チャリする為に洋南に入ったようなモンでーーー」

何を話そうかなんて考えは不要だったみたいで、荒北さんの話に疑問を返すだけで会話は進む。
学校のすぐ近くにある洋南大学が自転車競技の名門だって荒北さんに聞いて初めて知った。そう言われてみればあの派手なユニフォームを何度か学校付近で見かけたことがあるような、ないような。
荒北さんは普段自転車通学で、雨の日にしか電車に乗らないっていう情報も得て、そりゃいくらホームを探しても居ないわけだと一人心の中で納得した。
じゃあ今日会えたのはすごく運が良かったんだ、今くじ引きでもしたら特等を当てられそうな気さえする。毎日学校で神様に礼拝している甲斐があったなって思う私は、なんて現金なんだろう。
自転車の話をする荒北さんは目が輝いてて、本当に自転車が好きなんだなぁって思う。
くしゃっと顔を歪めて笑うその顔がなんだか少し幼く見えて、私の中にあった荒北さん=大人の男性っていう近寄り難いイメージを払拭した。
見ている私もつられて笑顔になって、荒北さんのことを知れば知るほどどんどん荒北さんに惹かれていくのが分かる。
ドキドキうるさい心臓は一向に収まる気配もなく、ひたすら駆け足で脈を刻んでる。
ずっとこうして荒北さんの話を聞いていられたらーーー

このまま時が止まればいいのに。
そう願ってしまう私は、自分が思ってるよりも恋に恋する乙女なのかもしれない。



AとJK 2-6
15分間 / 2017.07.14

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