その日は雨が降っていた。

雨の日は混雑するということをすっかり忘れて、いつも通り家を出た。それに気付いたのは駅までの道のりを半分過ぎたところで、気持ち早足で目的地に向かうけれど時計の針は待ってくれない。
駅に近付くにつれて人通りは増え、さっきまでのスピードは出せなくなって少し焦る。いつもの電車には間に合いそうにない。とはいえ次の電車でも遅刻するわけじゃないんだし、と気持ちを落ち着かせて改札に向かった。
普段は電車に乗らないのだろう人達でごった返した券売機を通り過ぎて、いつも通りSuicaを改札に押し付け目当てのホームへ向かって階段を上る。思いのほか時間がかかってしまったようで、やっとのことたどり着いたホームには既に電車が到着していた。
駅員さん、駆け込み乗車ごめんなさい。
心の中で謝罪しながらホームから滑り込むように車両に乗り込み、ふぅ、と無意識に吐息が漏れる。
混雑した車内は熱気と湿気を帯びていて、ぎりぎりに乗車したおかげで乗降口に近いところを陣取れたのは不幸中の幸いだろうか、ひんやりした扉が触れて心地良かった。

目的地まで3駅。
たった3駅、されど3駅。

いつもの電車に間に合っていれば、女性専用車両に乗れていたのに。
通勤通学用に朝に1本、夕方1本だけ提供される女性専用車両は雨の日でもここまでは混雑しないし、今みたいに知らないおじさんにぎゅうぎゅう押されることもない。
もう2年、毎日のように電車に乗ってきたはずなのに「雨の日」を忘れていたのはとんでもない失態だ。


ーーーそんな「雨の日」のうっかりが
人生最低の不運と人生最大の幸運を招くなんて、
その時の私はまだ、知らなかった。



AとJK 1-1
プロローグ / 2017.04.28

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