「いやダメだから!」

目を閉じて受け入れる体勢になっている千歳、唇に触れる直前になって急に目を開いたと思えば千歳は俺の顎を掴んで押した。
そんなことされれば当然首はぽっきり後ろに折れるわけで、キスするつもりでいたオレは肉体的にも精神的にも大ダメージを受けている。とんだ罠だ、んなことすんなら最初からキス顔すんなッショ。

「ぐぇっ、何すんショ!」
「危なっ!流されるとこだった、ダメだからそれ!
 裕介くんそこに直りなさい」
「...ショ」

ふくれた面して千歳は椅子を指差し、そこに座るようオレに促した。喜ばれることはあっても、怒らせるようなことを言ったつもりはないんだが。
昨日言いそびれたの怒ってんのか?しょうがないッショ、昨日は千歳抱くのが優先事項だったんだしよ。
でもとりあえず、今は大人しく従っとこう。
オレはまた食卓を前に元の場所へ腰を下ろす。
千歳、目が本気ッショ...

「日本に帰ってきてくれるのは嬉しい、朗報です
 が!子どもはダメ!順番が違うでしょ!」
「...ショォ」
「まさかとは思うけど...
 これってプロポーズじゃないよね?」

疑いの眼差しを向けてくる千歳にオレは黙って頷いた。プロポーズじゃなきゃなんだってんだ。千歳はオレが無責任に孕ます男だとても思ってんのか、心外ショ!
そりゃまぁ日本に帰れるとこになったからっつって安易な考えだとは自分でも思ってる。でももう離れ離れは懲り懲りだ、それは千歳だって一緒ッショ?
同じ日本にいるなら傍に居たいし、毎日こんな朝メシ食って、エプロン姿の千歳を抱きしめたい。そんなオレのささやかなドリームを叶えてくれたってバチは当たんねッショ千歳。

「ハァ...100点満点中10点だよ裕介くん...」
「なっ!?」
「もっとこう...雰囲気とかさぁ...
 指輪くれるとか...今だったら日本に帰ったら
 結婚しようとかあるじゃん...」

盛大なため息を吐いて千歳はオレの前で頭を抱える。
雰囲気?雰囲気なら今あっただろ、ぶち壊したのは千歳ッショ。やられた首がまだ痛いんだが。
指輪とかって言われてしまうと、ぐうの音も出ない。それは悪かったと思う、準備不足だったッショ。でもそもそもこんなことになったのは、千歳が突然あんなことを言うから!

「...千歳がオレ似の子どもとか言うのが悪いっショ」
「あっ人のせいにするのずるい!」

別にお前のせいにしてるつもりはねぇけど、そんなこと言われなきゃ普通にちゃんとプロポーズしてたはずッショ、多分、恐らく。
とはいえ一生に一度のことだ、千歳が望むんなら小っ恥ずかしくてもちゃんと言おう。結婚してくれ、でいいんだな?一呼吸置いてリテイクだ、やるときゃやるッショ裕介ぇ!

「まぁ裕介くんが選んだ指輪貰っても微妙かぁ」

手でも握って雰囲気出して、そんなこと考えてる間に千歳は笑ってそう言った。人が真面目にちゃんと言おうとしてるときに、何てこと言うんだ千歳。
すっかりやる気が削がれちまったッショ...

「ハ、どういう意味ショそれ」
「裕介くんのセンスって独特だからなぁ...
 ずっとつける指輪なら自分で選びたいや」

なんだそれ、オレのセンス馬鹿にしてんのか。
まぁでもそうか、ずっと身に付けんなら自分好みのものがいいに決まってる。
指輪、なぁ...
ちょっと気が早い気もするが、その手にオレのものっつー証があるのは悪くない、か。

「じゃあ今日見に行くかぁ?一緒に」
「え、」
「思い立ったが吉日ショ
 そうと決まれば出掛ける準備だ、千歳」
「え、ちょっ...えぇ?」

自分で言ったくせに何で驚いてんだ。
千歳は目を丸くしてオロオロしている。
そんな千歳はほっといて、オレは机の上の空いた皿をキッチンへ。シンク周りもピカピカになってら。ほんと千歳、いい嫁さんになるッショォ。

「イヤならいいショ」
「っ嫌じゃない!」
「じゃあさっさと準備、ほら」

キッチンから出てリビングから廊下に続く扉を開けて、まだダイニングで固まっている千歳を振り返る。
机の上に残るティーセットが気になるってか?そんなの今はほっときゃいいショ、腐るもんでもあるまいし。
困惑の表情のままの千歳は席を立ってオレのところまで来ると、寄り添うようにオレの腕に絡みついて、ぽそっと一言呟いた。

「...60点」
「クハッ!
 50点も上がってんじゃねぇか、チョロいな千歳」
「むっ、そういう裕介くんは60点で満足なの?
 そういうことは100点叩き出してから
 言ってくださーい」

言ったな、千歳。
オレを見上げる千歳は心底嬉しそうな顔してて、こんなことならもっと早く指輪でもなんでもくれてやれば良かったと少し後悔した。
100点なんて余裕だろ、
千歳のオーダー完走してみせるッショ!
千歳に軽くキスを落としてリビングの扉を閉める。

さぁスタート切って、行くッショ千歳!



Jack spider / seven years later 6
Jack bride -dream- / 2017.06.24

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