「コーヒー?紅茶?」

身だしなみを整えてリビングに戻ると、ダイニングテーブルにモスグリーンのランチクロスとワインレッドのランチクロスが向かい合わせで引かれていて、その上にカトラリーが準備してあった。
電気ケトルがカチリと鳴って、湧いたばかりの湯を片手に千歳はオレに尋ねる。中心に置かれるはずのメインディッシュはまだ無いが、これだけで今日の朝食は美味そうな気がした。

「紅茶」
「あ、座ってていいよ、すぐ持ってくー!」

キッチンに向かおうとしてた足をそのままダイニングへ、モスグリーンのクロスの前に座る。緑はオレのイメージカラーだと言って聞かない千歳は何かと緑のもんをオレにあてがってくる。安易なイメージっショ、オレは特別緑が好きってワケじゃないんだが。
じゃあ私はこの色にすると言った千歳は、アクセントで入れている赤のメッシュと同じ色を選んで使用している。自分の好きな色を選べばいいのに、そーゆートコ可愛いよなぁ千歳。

「紅茶っと...
 はい、千歳特製エッグベネディクト〜」
「ん、さんきゅッショ」

カウンターの上に置いたポットに湯を注いで蓋を閉め、ティーコジーをそれに被せる。カップとソーサーを2セット隣に置いて、5分の砂時計を使ってるのを見たところ、今日の茶葉はダージリンか。
紅茶のセットが終わったところで千歳はワンプレートにまとめた朝食を両手に一皿ずつ持ってキッチンから出てきた。クロスの上にそれぞれ置くと、またキッチンへと戻っていく。
すげぇなこれ、カフェに来たみたいな見た目ッショ!

「お好みでバルサミコ酢をどうぞ
 裕介くん好きだよねコレ」

千歳はそう言ってオレの前に細長い黒の瓶を置いた。これ取りに戻ってたのか、気が利くな。
砂時計とにらめっこを始める千歳に、あとで淹れればいっショと席につくよう促して、いただきますと二人揃って手を合わす。
まだ少し砂時計を気にしてんのか、別に全部同時に机に並べなくてもいいッショ。変にこだわるとこあるよな千歳。
ナイフをポーチドエッグに刺すと、とろりとした黄身がイングリッシュマフィンとベーコンを隠してく。この黄色のソースは何て名前だったか、オレンジソース?なんか違う気がするが、そんな感じッショ確か。
そのなんとかソースと黄身を切り取ったマフィンにつけて、パクリと一口。なんとも言えない風味が口いっぱいに広がって、元々マフィンはもそもそしてて好きじゃないが、これなら全然イケるッショ!

「ん、うまいッショ。何入れたぁ?」
「愛情をたっぷりと」
「クハッ!」

ドヤ顔して、んなありがちなこと言うなよなァ。
その愛情のお陰でこんなに美味くなるんなら、毎朝マフィンでも、まぁいいショ。バルサミコ酢を少しかければ尚美味い。
結構長く付き合ってきたつもりだが、そういやいつも一緒に作るか外食かで千歳の料理はあんま食べたことなかったな。
横に添えられた彩りサラダもベネディクトも気付けば全部皿の上から腹ん中に消えていて、いつの間にか紅茶が入ったティーカップが目の前にある。すげぇな千歳、こりゃいい嫁さんになれるっショ。
カップの紅茶を啜りながら最後の一口を頬張る千歳を見てたら、つい口元が緩んじまう。
昨日言いそびれた話、言うなら今か?
やっぱ千歳も紅茶で一息ついてからにしよう。
もう少しだけ、この幸せを噛み締めときたいッショ。



Jack spider / seven years later 4
Jack bride -breakfast- / 2017.06.21

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