目が醒めると横にあったはずの温もりは無くなっていて、くしゃくしゃになった髪をかき上げながら身体を起こした。
壁時計の針が指すのは10時7分。
こりゃちょっと寝過ごしたッショ。
ベッドから出て軽くリネンを整えて、床に落ちてる昨日千歳が抱いてたクッションを拾い上げる。
これ、本当にオレの匂いすんのかぁ?
試しにくんくん匂ってみるが、特に何も感じない。むしろ既に千歳の香りが移っていて、なんとなく昨日の千歳の気持ちがわかった気がした。

*

「おはよ裕介くん、ご飯出来てるよ」

部屋を出て廊下を真っ直ぐ、突き当たりの扉を開くと、カーテンは開け放たれてリビングは窓から差し込む朝の光で満たされていた。
パンの焼ける香りと一緒に聞こえた声はキッチンから、エプロン姿の千歳がひょっこりそこから顔を出す。
幾度となくこの家を訪れている千歳は勝手知ったると言わんばかりに慣れた手つきでボウルを取り出し、ちぎった野菜をそれに入れた。

「ん...はよぉ」
「お疲れ?昨日頑張ったから?」

悪戯っぽく笑いながら、ボウルに水を張る千歳。サラダ付きの朝食なんて久々ショ、千歳の居る生活がもし毎日続くとしたら最高なのにな。
冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出して、横の棚に置いてるストローをそれにさした。吸い上げた冷たいミネラルウォーターが喉を通って身体に染み渡る。
パタンと静かに音を立てて冷蔵庫の扉は元の位置に戻って右後方を見れば、後ろ姿の千歳がせっせと野菜を皿に盛り付けている。
ご機嫌に鼻歌なんか歌って、それ何の歌ッショ?

「クハッ!んなん頑張ったのうちに入んねーショ
 今日はもっとヤるから楽しみにしとけぇ?」
「朝からそんな宣言どうかと思うなぁ、
 裕介くんのエッチ!」

再会した日の初日は大体丸一日ベッドの上で、会えなかった分を埋め合わせるように何度でも、精が枯れ果てたとしても千歳を抱き続ける。それが昨日はうっかり寝ちまって、たったの2回しかしていない。そりゃ頑張ったのうちに入んねーショ?
顔だけオレのほうを振り返って手は動かしたまま、歯を見せて笑う千歳。エプロン姿って、なんかこう、グッとくるショ...
さりげなく真後ろに移動して、そこから千歳を見下ろしてみる。ちまちま何やってんだと思ったら、緑の葉っぱの上に細く刻まれた人参が乗せられていて、栄養素だけでなく見た目まで配慮された美味そうなサラダが仕上がっていた。
満足そうに、よし!なんて言っちまってる千歳、思わずその身を抱き締めた。

「久々に会ったのに我慢なんか出来ねッショ...」
「あっこら、ちょっ、ご飯冷めるからダメ!
 顔洗って鏡見てみなよ、
 裕介くん髪の毛くしゃくしゃだよ?
 そんな姿じゃご飯食べさせてあげないから!」

ちょっと耳にかじりついただけなのに、千歳はオレの腕を振りほどくと、リビング出口に向かってグイグイ背中を押してくる。

「...ショォ」

エプロン姿の彼女をキッチンでそのまま、とか、ドリームだったッショ...
残念ながら夢は叶う事なくその場から追い出され、渋々シャワールームの扉を開いた。自分でも薄々気付いてたが、なるほど直して来いっつーのも理解出来る。鏡に映るオレは中々の寝癖をしてた。顔を洗って歯ぁ磨いて髭剃って、髪の毛はブローだけで直ればいいが。
千歳のメシが冷める前に、先ずは洗顔から始めよう。



Jack spider / seven years later 3
Jack bride -breakfast- / 2017.06.21

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