扉を身体で押しながらキャリーを中に引きずり込んで、真っ直ぐ伸びる廊下の左手が彼の部屋だ。
荷物はひとまず玄関ポーチに置き去りにして、靴を脱ぎ捨て裕介と書かれたネームプレートの下がる扉を開け放つと、彼の残り香が鼻を掠めた。
すっきりと整頓された洒落た部屋で一番場所をとっているセミダブルのベッドに今すぐ飛び込んでしまいたい。
きっともっと裕介くんの香りがするんだろうな、でもそれをするのは今じゃない。最初にそんなことしちゃったら、そこからもう動けなくなってしまうだろうから。
あぁでもちょっとだけ、ちょっとだけなら...
そっとベッドに腰掛けて、薄紫のリネンに指を這わせる。サラサラとした肌触りがするそれをめくって、お目当のものの上にダイブした。
結局誘惑に負けてしまった私は、ふかふかのクッションに顔を埋めてそれを抱きしめる。彼の香りに包み込まれて幸せだ。でもそれだけじゃ物足りない、香りだけじゃなくて温もりも一緒に感じたい。

「裕介くん、早く会いたいよ...」

ぽつりとそう呟くと、余計想いが強くなる。
あともう少しだけ待てば叶う願いなのに、そのもう少しがやたらと遠く思えて何故かじんわり涙が滲んだ。

「裕介くん...」
「...何ショ、千歳」
「っふぉ!?」

声がした扉の方を振り向けば、緑の髪を左サイドに流した裕介くんが扉に寄りかかる形で佇んでいた。

「クハッ!んだよその間抜けな声、笑わせんなァ」

クックッと喉を鳴らして笑いながら、彼はこちらへ
近づいてくる。ベッドから急いで身体を起こして目元の水分を手で拭う。
あぁ恥ずかしいところを見られてしまった、てか何でここにいるの?物音全然しなかったけど!

「久しぶりッショ千歳」
「裕介くん...なんで?仕事は?」
「迎えに行けなかった代わりに、早上がりした
 んで、さっき帰ってきてリビング居たッショ」
「家に居たの!?最初から!?」
「ショ」
「早く言ってよそういうことは...」

クッションは抱き締めたままベッドに居る私の隣に、裕介くんも腰掛ける。ギシッと揺れるベッドが裕介くんの重さで傾いて、それに流されるように私の右半身が裕介くんの左半身に触れた。
4ヶ月ぶりの裕介くんの顔が見たいのに、こちら側に流された長い緑の髪の毛が彼の顔を隠してて、サラサラのそれが今だけちょっと嫌いになった。

「早く会いたい、だって?叶ったッショそれ」
「ちょっ...いつから見てたの!?」
「ベッドに座った頃から」
「っほとんど全部じゃん!
 なにそれ、居るなら居るって言ってってば...」
「クハッ!サプライズってやつッショ」

そんなサプライズいらないから!
そう返して、またクッションに顔を埋める。
見てたって...聞かれてたって...あぁもう。とんだ羞恥プレイだ、恥ずかしくてもう顔上げらんない。

「オレのベッドで何してたぁ?」
「...言わせないで、察してよ」
「顔、上げるッショ千歳」

大きな手が私の頭を撫でで、おずおずと顔を上げると微笑を浮かべた裕介くんがそこに居た。
ちょっと痩せた?ちゃんと食べてるのかな。
髪に触れてた手がだんだん下に、私の頬まで下りてきて、目元にまだ少し残っていた涙を全部持っていく。何も言わずにただその瞳を見つめていたら、小さい声で呟いて、彼は私にキスをした。

「オレも会いたかったッショ、千歳」



Jack spider / seven years later 2
Jack bride -reunion- / 2017.06.20

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