1年ぶりに訪れた地に、4ヶ月ぶりに会う彼が居る。

慣れたように空港を出て、仕事で迎えに来れなくなったという彼の家を一人目指す。キャリーバッグをコロコロ引いてタクシー乗り場に着くと、耳に入ってくるネイティヴイングリッシュが心地良い。日本語のかくかくした感じが多分性に合わないんだろう、日本も公用語が英語になればいいのに。
荷物をトランクに積んでもらって、後ろの座席に座るとバタンと自動で扉が閉まった。
走り出したタクシーの中から見える見慣れた街並みに大きな変化はさほど無く、あ、あそこ新しいお店に変わってる、後で行けたら行ってみよ。

大学の4年間をここイギリスのロンドンで過ごし、卒業と同時に日本で就職した。大学1年生のときから付き合っている彼は、そのままこの地で就職して、日本イギリス間は約1万キロ、飛行機で13時間の長距離恋愛3年目。
夏休みと年末年始しか日本に帰ってこない彼に会いに私は毎年5月のGWに渡英する。
週に何度かSkypeでTV電話をしてるから特別寂しいとかそういうんじゃないけど、やっぱり本物に会いたいよ。
予算の都合で年に一回しか来れないのはしょうがない。遠距離恋愛の宿命、年に3回も会えるんだから、織姫と彦星よりはマシだと自分に言い聞かせてる。

はやる気持ちを抑えつつ移動を始めて42分、通りに面した洋服屋さんの前で車を停めてもらって、キャリー片手に"LEN"と大きく掲げられた看板を見上げる。店頭のディスプレイは既に夏服になっていて、ノースリーブのワンピースを着るマネキンは涼しげだ。
1年ぶりにやって来たお店の中を覗き込むと、去年と棚の配置がガラリと変わっていて驚いた。大掛かりな作業大変だったろうな、裕介くん。力仕事でぐったりしてる姿が目に浮かぶよ。

お店の前を通り過ぎ、二階への階段があるエントランスに足を踏み入れれば、キャリーのガラガラという音が吹き抜けの天井にこだまする。
伸ばした取手を収納してそれを持ち上げ、26段の階段を登りきると、たったそれだけなのに私の肩は上下した。
これくらいで息が上がるとは、運動不足は否めない。彼のように定期的に自転車に乗ってればそんなことはないんだろうか、それもちょっと前向きに検討してみよう。
裕介くんも兄ぃもTIMEだし乗るなら絶対TIMEだな、なんて何となくロードデビューに乗り気になって考えてたら、2階で最初に目につく白の扉の横に、不自然に置かれた鉢植えがある。

『鉢の下に鍵置いとくショ』

確か昨日彼はそう言っていた。
よいしょと持ち上げた鉢植えの下、受け皿の真ん中に、銀色のそれが言われた通り隠されていた。
日本では良くある置き鍵、不用心だなぁと思いながら白の扉にあいたキーホールに差し込み回すとガチャリと音を立てて、鍵は開いた。



Jack spider / seven years later 1
Jack bride -reunion- / 2017.06.20

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