寝て起きてセックスをしてまた寝たら正月は終わっていた。あくびをしながら横にいるふわふわした金髪を撫でる。地毛が金色だと告げていたので、痛みなく一本一本が細い。もうずいぶん、撫で慣れた髪質だが、毎朝風呂をあがったあとも髪と格闘しているので、この髪を抗えない老化から護るのは大変なのだろう。
まぁ、それ以上に肌を頑張っているみたいだけどな。芸能人は肌と白い歯が大事なんス! と力んで説得していたな。確か。
なにせセックスをすること自体、久し振りだったので、起き上がると腰が痛くて流石に四十歳になって無理をするもんじゃねぇなぁと少し体を曲げながら歩き思った。腰から歩くたびにずきっと鈍い痛みと疲労感があるが、こんなもん暫く動いてたらましになるだろう。
黄瀬を起こそうか迷ったが気持ち良さそうにしているので、朝ごはんを食べるまでは放置しておいてやろうと、郵便受けまで足を延ばすと、溜りに溜った年賀状と新聞が投函されていた。
歳をとるごとに、会社関係以外の年賀状が少なくなっていくことは、なんとなく寂しいものだが、俺としては書くのも面倒なので礼儀として出すとかいう風習がなくなってしまえといつも思っている。インク代やはがき代は年末の色々出ていく季節にはあまり歓迎されない値段だし、なにより時間を食うのがいただけない。
輪ゴムで括りつけられた葉書を手に取って、それでも旧友から届くことには、懐かしさを孕んだ嬉しさがこみ上げてくるので、年賀状自体は悪いものではないだろう。やっぱ、メールとかでは表せない良さが紙媒体にはあるからな。
机の上には本当は正月に食おうと思って用意したおせち料理を戸棚から出して並べる。和食は一日放っておいたくらいで、食べることに問題ないから助かる。派手ではないが、手間暇かけた料理にきっと黄瀬は例年通り、喜んだ顔をして頬張るだろう。「幸男さん、まじで料理上手くなったスね。はじめはお米だって焚けなかったのに」なんて余計なひと言をつけて。まぁ、事実だから言い返せねぇし、お前が仕事で忙しいし家にいるのは俺の方が多いんだから不味い料理食べたくなきゃ上手くなるしかねぇよな。毎回、外食や中食だと若い頃の給料じゃキツかったしなぁ。

「幸男さん」

後ろから覆うように抱きつかれる。身長差は相変わらずだ。肩に顔を埋められ、啄むようなキスを落とされると、顔が近くにきて、頬っぺたにキスをする。黄瀬は本当にキスをするのが好きだ。ちょっと好き過ぎるだろうって俺が思うくらいには。

「あけましておめでとう黄瀬」
「うん、おめでとうございます。へへ、もう二日スね」
「ほんとによ! テメェが盛るからだろ!」

腹に肘で鳩尾を入れるようにして突っ込みを入れるとにやけたしまりがない顔で黄瀬は「幸男さんだってのりのりだったじゃないスか」と述べてきた。なにが、のりのりだと言い返してやりたかったが事実なので、否定しないまま口を閉ざす。
セックスが盛り上がってしまったのは俺にも原因がある。まるで黄瀬と付き合いたてのことを思い出す、セックスだった。そもそも俺が年賀状に対してぐちぐち漏らしたように、年末は忙しくやることも多い。会社務めをしている俺も、芸能人として今は活動している黄瀬も例外ではなく、特に黄瀬は正月に休みを獲得するためアホみてぇに忙しかった。アホみてぇとしか表しようのない、忙しさで俺たちは一か月ほど同じ家に住みながら会えなかったのだ。
会えたのが大晦日なので、そこから猿のように抱き合って、キスをして、セックスをして寝てまたセックスをして、また寝てを繰り返した。学生時代から合わせて黄瀬とこんなに会えなかった日々はなかった。俺が転勤になった時だって、なにかと理由をつけて二週間に一度は交通機関を駆使して会っていたというのに。
忙しさにこれほど腹が立ったことはない。どちらかというと俺は家で寝転がっているより、忙しない日々を送っている方が充実を感じるタイプなので、仕事に関して嫌気がさしたことなど、あまりなかったが、久し振りに腹が立って、ああ、もう休ませろよ! 俺も黄瀬も! と怒鳴り散らしたくなったほどだ。
駄目だな。セックス漬けの正月といい、どうにも黄瀬のことになると若くなってしまう。幼い自分が顔をだしてきて、やっぱり自分っていうのはどこまでも自分だなぁと呆れかえってしまうほどだ。

「あ、幸男さん」
「なんだよ?」
「白髪っス。発見――」

そう言って黄瀬は白髪を抜き取った。そりゃ、もう四十歳だからな。発見するまでもなく、白髪がちらほらあるだろ。そろそろ染めに行かなくちゃみっともない髪の毛になっちまう。

「白髪がある俺も好きだろう。涼太」

耳朶の近くでわざと色気たっぷりで囁くと、反則な色気だと逆に叱られた。




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