書類整備を終え寝ているとシンが部屋の中へと入ってきた。王である者の特権は誰に許可を求めることなく、私室へ入れることだろうかと眉を顰める。勤務時間外ですよ、とにっこり嫌味ったらしく返事をすると、枕元に隠していた書類を指摘された。これは寝る前の方が文章を書くには頭が働くので他国への外交申込状を一筆書いてしまおうと持ち帰ったものだ。

「お前はまだ仕事中だろう」
「そうですね……仕事中です。悪かったですね」

ぐいっとベッドまで来たシンを押しやるが、びくともしないシンは食えない笑みを浮かべながら私から紙と筆を取り上げると、寝台の上に置きジャーファルは俺に構わなければいけないと、夜伽の時しか発しない肉声を耳元で囁かれた。
失礼ですね、いつも貴方のことを考えていますよ――と溜息を吐き出しながら、言い出したシンが止まらないことは知っていたので、にっこりと笑って言い返してやった。


セックスというのは既に数えきれないほどしてきたが、昔のようにシンは私を貪らない。出会ったばかりのシンというのは、それはもう若さの塊で私も生意気な餓鬼だったから、セックスというより動物同士の交じり合いと表現した方が正しい。数も多くこなしていたし、精液を吐き出すことに特化していた。
けれど、今はどちらかというと、体液というより温度という曖昧なものが絡み合うつながりをしている。腰を振ることもあるが、すべてがゆっくりで、息遣いや目の動きがすべて私から眺めることが出来る。
若いだけの私もシンもベッドの上ではいなくなった。どうしてこう、変わり行く生き物にしか慣れないのだろうか。良い方向へと変わっていくこともあるが、ここで止まっておきたかったという場所で立ち止まることがけして我々は出来ないように作られているのだ。
舌先を伸ばしてシンと共に交じり合うと、皮膚が乾いてきていることが変わる。身体は熱を帯びているのに、老いつつある身体はいつまで経っても潤いを保った状態ではいられない。足が冷たいのに、皮膚が乾いており、身体は熱く火照っている。可笑しな状況ではあるが、シンと交わっていない間しか体験できない浮遊感だ。棒がじわじわと私の中に入ってきて、咥えることに特化した穴が締め付ける。ぎゅうっと締め付けて、息を吐き出して、もう鼓膜の中には息しか入ってこない状況になって、彼の熱を受け入れる喜びに善がる。


布団の中から起き上がると肌寒かった。鼻先に異国の香りが流れ込んできて、嫌な予感がして飛び起きる。裸のまま飛び起きて窓辺まで駆け寄ると、雪が降っていた。なんてことだ。ロマンチックだと黄昏ていられる身ならば良かったが、雪を初めて見るという国民が多い中で対策を練るのは至難のわざだ。

「どうしたジャーファル」
「どうしたじゃないです。雪が降っているんですよ」

あ――もう、どうすればいいんだ! と頭を抱えて喚いていると、なんとかなるだろうと陽気に腕を組まれながら言われた。陽気な言葉を吐き出すわりには脳内で緻密な政策が練られていることを知っている。この人は、そういう人なのだ。
立ち止まることは出来ないが彼の変わらない、私が愛したままの彼もいるのだと見えないように笑った。



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