04


及川の自主練習に付き合うのは既に日課だ。先輩たちは鍵を気前よく貸してくれて、俺は鍵をくるくる回しながら及川が練習を終えるのを待つ。たいてい、俺の方がはやく終わる。体力と集中力の問題で、やりすぎるとオーバーワークとなり逆効果だ。俺が鍵を置いて帰宅しないのは、及川のアホが練習しすぎないように見張っている。放っておいたら、いつまでも練習してやがるからな。
ただ、バレーに集中している時の及川は男の俺から見ても、カッコイイと認めざる負えない所がある。集中力頂点にまで達し、ボールを持つ手のひらを睨む眼光は野獣のようにぎらぎらしている。時間が経つのを忘れる集中力。疲労する身体を忘却する熱中。誰よりも体を酷使して、バレーと真剣に向き合っている姿。だから、中学の時、コイツがバレー部の主将に選ばれた時、異論を叫ぶ奴はいなかった。きっと、高校でも選ばれるだろう。普段、軽薄に見られがちだが、及川の手のひらを垣間見ればアイツがどれだけ努力をしてバレーと向き合っているかが判る。

「及川――帰るぞ」

時間を見計らって、及川に静止の声をかける。不満そうに頬っぺたを膨らまし、練習が足らないという表情を見せたが、駄々を捏ねてもダメだと俺は睨み付ける。
ネットを片付けて、ボールを倉庫に終って帰らなければ、両親に怒られる時間だ。学校の当直も、あと三十分もして電気が点灯したままだと、怒鳴り声で体育館まで走ってくるだろう。

「え――まぁ、しょうがないけど。ねぇ、岩ちゃん」
「なんだよ。ふざけた内容だったら殺す」
「ひど!」
「酷くねぇ」

やっぱり下らないことを言う気、満々だった及川に牽制をかけるが、アイツにしてみれば無意味な言葉だったらしい。俺の言葉を避けて、足をこっちに近づけてくる。マジで嫌な予感しかしねぇ。

「セックスしよう」
「断る! 体育館でなに言ってんだ」

及川の頭を引っ叩く。拳で殴らなかっただけ優しいものだ。
及川は殴られた頭を痛そうに抑えながら、上目使いでこちらを見て、油断した俺の両手首を掴んで口付けた。
いつもより強引な仕種。俺は壁に後頭部をぶつけ、苦言を及川の咥内へ吸い込まれる。生理的な涙が双眸からじわりと湧き出し、てめぇいい加減にしろよ、と叱咤を飛ばしたいのに、口は離されない。
咥内を蹂躙され、舌を刷り合わされ舌と舌をいやらしく擦り合わせられる。
こんな所なのに、下半身に直撃する。素直すぎるだろう。俺の息子。もう少し、大人しくしてやがれ。

「及川!」
「だって、欲求不満なんだもん。練習したりない」
「だからって性欲で発散しようとするな」
「うん、けど岩ちゃんだってその気だよね」

頭の腕で掌をひとまとめにされ、下半身を左手で弄られる。すでに反応している俺のチンコに触れた及川は満足そうに口角をあげ、主張しているチンコを撫でた。

「っ――! 体育館以外だったら考えてやる」
「わ――い。俺も体育館でする気はなかったよ。あ、岩ちゃん勃起してて辛いと思うから片付けは俺がやっておくね」

ちょっと待っていて、と及川はウィンクを飛ばし後片付けを始めた。お前、普段からもっと早く動けよ……とか。この性欲過多かお前は! とツッコミを入れたくなる性行為の誘いがなければ、及川を素直にカッコイイと俺も認めることが出来るんだろう。
つ――か、片付けの間、放置されたら正直な話、萎えるんだが。お前だって男だから判るだろうが。収まったら帰っても良いか? そんなことを考えているのが判ったのか、モップがけをしていた及川から「勝手に帰ったら、家に押しかけて酷いことするよ!」という恐ろしい言葉を耳にして固まった。





及川に連れて行かれた先は当直室だった。
教師はどうした。教師は。
及川をひと睨みすると「お願いしたら貸してくれた」らしい。おいおい、それで良いのかよ。確か今日の教師は四十過ぎのオバサン英語教師だったか。及川の笑顔に心を奪われた人間の一人か。どういう理由つけたら、当直室借りることが出来るんだよ。俺なんて初めて入ったんだけど。
四畳程度の狭いスペースに布団が一つひかれていた。年紀を感じさせる布団に俺は寝ころばされる。汗ばんだ体臭が気持ち悪いが、及川は気にならないらしい。

「学校でするってちょっとドキドキするね」
「あっそ」
「え――もっとノッてきてよ」
「無理です」
「敬語! まぁいいけど。岩ちゃんにはこれから、めろめろになって貰うから」

すっかり収まった俺のチンコに及川は手を伸ばす。
いきなり服の切れ目から手を忍ばされ、臍に触れられる。くすぐったい。もどかしい感触に尻穴の隙間から、ぞわぞわとしか快楽が登り続けてきた。
素肌に触れた指が下半身へ這うようにつたい、直接チンコに触れられる。
俺は習慣みたいに抵抗を示そうとしてしまうが、ムカツクほど整ったクソ及川の顔面が下から凝視してこた。

「抵抗しちゃダメ」
「っ――無理だ、ろ」
「抵抗している岩ちゃんも可愛いけど、今の俺に押し付ける力ないから」
「だったら、止めればいい」
「したいのと体力は別問題だよ」

及川は意味不明な科白を吐き出し、名案を思い付いたというように、鞄から制服のネクタイを取り出して俺を縛った。お前、縛るの好きだな――呑気で縛り慣れてきた俺は及川のことを冷ややかな眼差しで見つめる。

「はい、これで大丈夫」
「わ――」
「テンション下がる声ださないでよ岩ちゃん」

怒っちゃうよ、と及川がまったく可愛くない媚びた声を出した。萎えるって。
及川は気にせずに俺の衣服を脱がした。
浮かれ気分で脱がしている及川を蹴飛ばしてやろうかとも思ったが、腕を縛られてしまって、わずかに諦めがつく。

「せっかく縛ったから新しいことしようか」
「断固としてお断りだ」
「ハイハイハイ。岩ちゃんの意見は聞いてません」

及川はお前それ普段から持ち歩いているのかよとツッコみを入れたい、性感マッサージ用のジェルを鞄の中から取り出した。こんなのが憧れの及川サンの鞄から出てきたら発狂しちまうな。

「せっかくだから今日は後ろだけでイってね」

寝言は寝てからいえ。
無理を言うな。
二通りの文句が脳内に浮かび上がったが口にする前に、後孔へ指を突っ込まれた。

「っ――」

何回されても身体が慣れない。ケツの中に異物がある感触が気持ち悪いのに、気持ち良くなってくる。ムズ痒いという表現が良く似合う。焦らせれている。及川のボールを放つあの指が自分の中にあるのだと意識すると突然、顔が染まった。

「あ、岩ちゃん感じてるよね」
「うっせ―――」
「もう、シリだけでも感じられるようになったよね。偉い、偉い」
「っ――ふ―――く」

及川の指が二本に増やされ前立腺に触れる。肉壁を推し進めていき、這うように蹂躙されると、奥底で疼いていた前立腺を掴まれた。指で挟むように刺激されると、ヤバい。腰が浮くし、目の前がチカチカと光って、どこかへ飛んで行ってしまいそうになる。

「おい、かわっ――」
「ほら、岩ちゃんのチンコだって元通りだよ」

素直なオレの息子は(最近、ちょっと素直すぎると思う)むくむく立ち上がって、勃起していた。赤ん坊がおしめを変えるような体制で及川にケツを弄られ、勃起し、自分の腹についているチンコを見ると、間抜けだがどこか卑猥で羞恥心を伴う。

「くっ――ぁ」
「後ろだけで勃起できるようになったなら、大丈夫だよ」

なにが大丈夫だ。
どんどん俺を新しい扉へと推し進めようとするんじゃねぇよテメェは。今さらだか、性欲処理にしても行きすぎだろうこの関係は。ちょっと歪じゃねぇか、と常に疑問に思うが熱に浮かされた及川の必死な顔と心地よさそうな肉声を聞くと、尋ねるのが憚られる。別に幼馴染だし、及川だから良いかという寛大な気持ちで迎えなければやっていけねぇ。

「っ――おい、かわ、それ止めろ」
「それって? 前立腺挟まれること」
「ひっ――」

思わず声が出る。
及川は俺のこの、ふいに出てしまう嬌声を聞くのが大好きらしく、震える身体を無視するように、二本の指で前立腺を震わした。

「っ――はぁ、もう、早くイれるなら入れやがれ」
「なにその可愛くない誘い文句!」
「可愛さを俺に求めてんじゃねぇ」

キモ、キモキモ! と身震いする。俺の手が自由ならば及川を殴っていた所だろう。
及川は頬っぺたを膨らませながら、しょうがないなぁと指を抜いた。

「岩ちゃんの誘いにのってあげる」
「っ―――そりゃどうも。光栄だぜ」

及川の怒張したチンコが俺の後孔にピタリとつけられて、ぐぐっと押し込まれる。及川を受け入れる準備はすっかり整えられている、俺の後孔は及川のチンコを簡単に受け入れた。

「っ――はぁ、でけぇっ」

悔しいことにこの男は顔だけではなくチンコも大きく長いのだ。同じ男としてイラつくので、感想をそのまま述べると、突如として、中にはいったチンコがでかくなった。

「なにっぁ、膨らませてんだっ!」
「岩ちゃんったら最悪! 無意識、淫乱ちゃんめ!」
「誰がだよ、誰がっ!」

終わったら覚えておけよ! と苛立ちを露わにしていると、調子を取り戻した及川が俺の腰骨を掴んで、上下に挿しいれを始めた。
ずぶちゅ、じゅ、とジェルが気泡を潰すような音を奏で始め、的確に俺の良い所を押す及川の腰使いにすっかり翻弄されてしまった。

「っ――はぁっぁ、」
「もうイっちゃいそうでしょう、岩ちゃん」
「くっ――ぁ、っぁ、チンコ、触らせろっぁよ」
「駄目、後ろだけてイっちゃってください。今日は乳首も触ってあげないから」
「っ――」

乳首が俺の性感帯みたいな言い方しやがって。ふざけんじゃねぇ! と思ったが、乳首を触られて、感じる、感じないかで討論すると感じるに入ると認めざるおえない経験があるので、文句がいえない。
そもそも、文句いうまでもなく、及川に後孔を突きまくられている。

「っ――ぁ、もっつぁイくっ――から、弱めやがれっ――」
「色気なさすぎでしょ」

後孔が及川のチンコを握りしめるように、収縮する。
及川のチンコが俺の前立腺目掛けてついてきて、爆発をして、俺も達したのに、腹に当たり勃起したチンコは相変わらず膨れ上がったままだ。
はぁ、意味わかんねぇんだけど。
確かに達したはずだ。射精をぶち撒けた快感が身体の中を駆け巡ったのに。

「ひぃっ――はぁ、なんだ、よ、これっ」
「射精してないじゃん、岩ちゃん」
「待て、動くなっぁ、ひっぁ、ぁ」

射精を終えすっきりした顔の及川が俺の中から出て行こうとしたが、その時の動きで、肉壁を伝ったチンコに刺激され、俺の身体は震える。まるで何回も達した時の絶頂が固定されているような快感だった。
頭がどうにかなりそうだ。

「っ――てめぇ、どうにかしろよ、及川っぁ、なんだ、っぁ、ひっぐ」
「もしかして、空イキってやつ? それかドライオーガズム? どっちか判らないけど、岩ちゃんったら感じていて可愛い」
「可愛いとかっぁ、そういう問題じゃねぇんだよっぁ、ひっ」

生理的な涙が頬から滲み出てくる。
嫌だ。こっち見てんじゃねぇぞ、及川。マジで恥ずかしい。
拘束された腕を使い顔を隠そうとするが、あっけなく、俺の顔を覗きこまれ、及川がキスをしてきた。
なんで、この場面でキスなんだよ。涙と汗とついでに鼻水まで出そうな男にキスしてきて、なにがしたいんだ。それより、この疼きをなんとかしろ。

「ふふ、岩ちゃんったら可愛い」
「寝言は寝てから言えっぁ、っ――及川っ、はやく、なんとかしろ」


満足そうに笑みを作った及川が再び動き出すまでに、俺はキスを二回ほどされた。


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