03



部活が終わって帰宅したらシャワーを浴びるのは鉄則だ。汗臭いままじゃ気持ち悪いし、母親から「臭い」と叱咤される前に、シャワーを浴びて中学時代のジャージに着替えるのがいつものコース。
練習が午前中だけで終わった日とかは、先にご飯を食べてしまいたい欲求を抑えシャワーを浴びるので、空腹を訴える胃袋にはキツイものがある。かと言って、母親に小言をいわれる面倒を考えるとシャワーを浴びるのを優先しなければならないのは頭の中で理解はしている。
まぁ、浴びるのは気持ち良いしな。
石鹸を泡立たせ、湯気でなにも見えなくなった鏡に、風呂場に鏡がある意味ってねぇな、と思い適当に髪の毛と体を洗っていると、思わぬ来客者の登場に俺の身体は飛びあがった。

「ヤッホー岩ちゃん」
「ヤッホーじゃねぇよクソ及川。なにしに来たんだ。出ていけ」

桶を持って及川に投げつける。お凸にヒットしたが、痛くも痒くもないようで、及川はにやにや笑いながらこっちを見ていた。ムカツク。
人の家へ勝手に入ってくるところか、風呂場にまで侵入するとか、普通にビビる。「おばさんに許可は取ったよ」と決め顔で告げるので、俺の親どれだけ及川に甘いんだよ、と嘆きたくなった。

裸であるということ、風呂場という下手をすれば大けがを伴う可能性がある場所でなければ全力で殴りにかかっていた。そもそも、コイツがセッターというポディションを一年の身でありながら習得するため、猛練習に励んでいると知っていなければ殴っていた。

「ねぇ、岩ちゃんセックスしよう」
「断る」

コンビニ行こうくらいのノリで誘ってきやがって。
なんだ。俺は24時間営業じゃねぇぞ、クソ川。
断固として断ったのに、丸裸の及川は俺に近づいてきて、頬骨を掴んだ。おえ、キスされてる。マジ気持ち悪いと気づいたのは、及川の舌が俺の中に侵入してきてからだ。
吐く。終わったら絶対に吐く。

「キスとかしてんじゃねぇ」
「え、初めてだった? 奪っちゃった――」
「死ね。水、水」

口の中を洗い流したくて、出しっぱなしになっていたシャワーを手にとり、咥内を濯ぐ。セックスまでしておいてキスの一つや二つでなにを今さら? と思われるかも知れないが、俺にとって異常事態だ。可愛い女の子とキスなんて夢を思春期真っ最中の俺も、人には言わないが密かに持っていたわけで。
いくら及川の顔が、そこら辺に居る女子よりムカツクことに整っていようが、俺にとっては関係なかった。
睨みつけると及川はたいそう、不服そうな顔つきでこちらを見てきた。
なんだ、文句があるのはこっちだよ。テメェ

「岩ちゃんったら水責めして欲しかったんだね」
「は、ちゃんと日本語喋れ」

不機嫌になった及川は俺の睨み攻撃なんて気にせずに、俺が持っていたシャワーを奪い取ると、無防備な股間へ押し当てた。

「っ―――おい、なんだ、これっ――」
「水圧で岩ちゃんのおちんちんを刺激してるんだよ」

無数の細かい粒が俺の股間に飛んでくる。シャワーから湧き出た水圧が、人間じゃ不可能な動きを再現していた。

「くっ――」
「あ、岩ちゃんったら、声また押し殺してる」

押し殺すに決まってんだろ!
ただでさえ、風呂場はいつも及川とセックスしている部屋と違って小さい空間だから、響くんだよ。ちょっと声を漏らした程度で、俺がすげぇ喘いでいるみたいになって気持ちが悪い。

「っ――風呂場じゃなくて、部屋行ったら相手してやるから」
「え――それもかなり魅力的なお誘いだけど、今日はお風呂がいいかな?」
「ぁ――ってめ」

俺が恥を忍んで頼んだというのに、及川はさらりと提案を却下して、チンコの裏筋にシャワーを押し当てた。
裏筋にあたったシャワーの水圧が飛んできて睾丸にまで温い刺激を齎すから、性質が悪い。
俺のチンコはみるみるうちに勃起して、戦闘態勢に入ってしまった。

「岩ちゃんって勃起しやすいよね」
「ぁ、――ちがぇよ」
「普段から抜いてないから、こうなっちゃうんだよ」

うるせぇな。人並みに抜いてるよ。
つ――か、最近はお前が押しかけてくるから、抜く必要すらないわ。このボケナス。
初めて二人でAVを見たときの初心さから脱出した今では、巨乳の女が出てくるビデオを堪能したくてたまらないのに。抜こうと準備するとお前が表れるんだろうか。なんだそれ。俺の部屋にビデオカメラでもつけて盗撮でもしてんのかってくらい、ベストタイミングだぞ。

「一回抜いてあげても良いけど、せっかくお風呂場だしね」
「は? っぁ、なにが、だよ」

そう言って、及川は俺を抱きかかえた。
おいおい、無理するなよ。お前より身長が低いとはいえ、鍛え抜かれた筋肉のせいで体重計に乗ると、肥満と判断されるくらい俺は重いんだぞ。まだ高校一年生だから、もう少し体つきが出来上がってくる予定だけど。

「おい、腰痛めてもしらねぇぞ。あと、身体密着させんな」
「俺も鍛えてるから大丈夫だって。ほっと」

及川は俺を抱き上げ、方向を変換させる。目の前には、蛇口と、俺が意味不明だと長年思っていた鏡があった。
湯気で覆われた鏡に及川はシャワーを向け、見えるようにする。すぐに、曇ってしまうので、意味ねぇ行為だぞ、と思っていたら俺の身体から及川の腕が離れた。ここで放置されるのか。別に自分で抜くから良いけど。

「ちょっと待っててね、岩ちゃん。自分で抜いてら酷いことするよ」

酷いことってなんだよ。
想像して青筋がたったし、悪寒も走った。俺の方こそ、これが終わったら覚えておけよ。流石に風呂場ではねぇだろう。
立ち上がった及川は扉を開けて、脱衣所にある換気扇のボタンを押したようだ。俺、そのボタン一回も押したことねぇは。
けど、お蔭で及川が再び鏡を水で濡らすときちんと鏡としても役割を果たし始めた。

「お待たせ岩ちゃん」
「待ってない」
「え――なんでそんな連れない反応なの」
「当たりまえだろ。終わらすなら、さっさと終わらせろ」

なんか岩ちゃんってだんだん、男前になってきたね。と及川が語る。
初めてセックスしてから及川とはすでに五回以上セックスしてきた。いい加減、慣れだして当然の時期だ。

「鏡に手をついてよ岩ちゃん。そうしないと、辛いと思うから」

命じられたことに大人しく従うのは癪だか、言われた通り鏡に手をつける。
自然と及川の方に腰を突き出す形になり、恥ずかしいな。このポーズ。

「今日はシャンプーが潤滑油の役割を果たしてくれるから」


安心してね、岩ちゃん。
そう及川は俺の耳元で囁いて、シャンプーでぬるぬるにされた指を後孔に入れてきた。
何回、挿入されても肉壁を異物が進んでいく感覚は慣れない。
時間を置いてしまったので、少し萎えていたチンコが後孔を弄られるごとに、元気を取り戻してきた。
しょうじきな息子だ。

「――っ――」
「岩ちゃんって深い所も好きだけど、浅い所も好きだよね」
「黙ってろ!」

耳元で囁くな。耳元で!
及川は指を突き刺してすぐそこにある、俺の感じるポイントを第一関節を曲げ撫でる。輪をつくるように回され、俺の腰が物足りないと疼く。
及川に良いよう翻弄される自身が苛立つ。
こいつ何時も慣れてるっていうか、余裕なんだよな。俺もその伸びた(性的な面で)折ってやりたい。聞いたことねぇけど、俺としたとき童貞の腰使いじゃなかったし、彼女も何人かいた記憶があるから、経験も俺より豊富なんだろうよ。どうせ、俺はまだ童貞だしな。可愛い彼女が欲しい。今はバレーに集中しているから、気持ちも抑えられているが、バレーをしていたって可愛い彼女は欲しい。

「ひっ――ぁ、おい、及川っ」
「なにか違うこと考えてたでしょう。酷いなぁ岩ちゃんったら。こんなに、俺で感じてるくせに」

指を抜かれ、及川の勃起したチンコが俺の中に入ってくる。ずるずると。及川のサイズを受け入れられるようになってしまった俺の後孔だが、何回受け入れても限界だと叫ぶように、今にも切れてしまいそうな襞が伸びている。
僅かな痛さで、及川が俺の中にいることがわかる。

「っ――はぁ」
「ほら、鏡見てみなよ。なんの為の鏡なの?」

顎を持たれ、下を向いていた目線が鏡を捉える。
そこには、普段の俺からは想像できないほど情けない表情をしいた。口角から涎を垂れ流し顔を真っ赤にし、双眸は潤んでいる。及川のチンコを咥えこんで、腹にくっつくほど勃起した俺のチンコが見えて、羞恥心でどうにかなりそうになった。

「ん――はぁ、っぁ、俺じゃねぇ、よ、んなの」
「岩ちゃんだよ。鏡だもん」
「っ――ぁ」
「どんなに否定しても、鏡に映ってるのは岩ちゃんだよ。俺に掘られて」
「うっせーーっぁ、ぁ」

そうだ。
どんなに否定しても、鏡に映っているのは俺に違いなかった。快楽の虜に成り下がった男の姿が浮かんでいた。
喘ぎながら、鏡に映る自分から目線を逸らした。
すると、今まで見えていなかった、俺の背後に居る及川の顔が写った。さぞ、余裕綽綽な表情で俺を突いているのだと思っていたが、意外にも及川の顔は快楽を貪り、今にも射精してしまいそうな熱を我慢して耐えている男の顔だった。
余裕、ねぇじゃん。
俺より経験豊富だと決めつけて、俺の身体を玩んでいる及川に余裕がないのだと判ると、妙に心地よかった。俺も及川を翻弄しているのだということが分かった。

「っちっ――ぁ、ちょっと、顔かせ」

及川の髪の毛を引っ張って、強引にキスをする。背後から繋がったままのキスは体勢的にキツかったが、どうしてもキスしたい気分になったのだ。
噛みつくような乱暴なキスだったが、及川はまさかの俺からの反撃に驚いたようで。なんと、射精してしまった。
勝った! と勝ち負けではないのに、気分が良い俺に対して、微妙な心境の及川が「もう容赦しない」と俺に襲いかかり、第二ラウンドが開始した。



いつまで二人で入ってるの! と母親が台所から怒鳴る声で正気を取り戻し、慌てて風呂場から出た。



- ナノ -