01


「岩ちゃん、オナニー見せて」
「はぁ、嫌に決まってんだろ」

中学一年の夏だった。
部活が午前中で終わったので、俺の部屋に集まってゲームをして及川と時間を潰していた。ゲームも退屈になり、俺のマリオは画面の片隅で朽ち果ててしまったので、雑誌を広げベッドに横たわった。「俺ばかり勝つからって拗ねないでよ」と騒ぎ立てる及川を無視して、雑誌を捲っているといきなり放たれた一言だった。
オナニー見せろって。
馬鹿かお前は。いきなり、なに突拍子もねぇこと言ってんだ。
俺は口を大きく開きながら及川を凝視した。
及川は笑顔のまま、こちらを見てきた。

「なんで、嫌なの岩ちゃん」
「普通に考えろよ。嫌に決まってんだろ」
「ここに、センパイから回ってきたアダルトビデオがあっても」

鞄の中から及川は黒いビニール袋に入ったアダルトビデオを取り出した。皺くちゃにされたビニール袋は世話になった先人たちの数を物語っていた。中学に上がりたての俺は、アダルトビデオなんてもの見たことがなかったから、ごくんと生唾を飲み込んだ。

「あ、岩ちゃん興味深々でしょう」
「うっせ――な。つ――か、先にそっちを言えよ」
「こっちの切り出しの方が惹かれない?」
「違う意味で引いたっての」

及川の腕から黒いビニール袋を奪い取り、パッケージを見る。そこには黒いビキニを着て、弾けそうな胸を強調するように、腕を谷間の下へ潜り込ませ挑発的にこちらを見ている女がいた。

「岩ちゃんったら真っ赤――」
「悪かったな」

恥ずかしくなって要領オーバーとなった俺はアダルトビデオを及川へ突き返す。もう片付けろ! という意味だったのだが、及川は平然とした顔で、DVDデッキの中へアダルトビデオを突っ込んだ。

「お、おい!」
「大丈夫でしょう。岩ちゃんの親、まだ帰ってこないから」
「そりゃ、そうだけど」
「俺だって見たいもん」

お前だったら選び放題だろう、と中学に入って急増した及川を好きだという女たちを思い出す。
リモコンの再生ボタンを及川は躊躇いなく押す。画面は校舎が写り、横道へ逸れ学校のプールへと画面は切り替わった。あの水着で学校のプールを泳ぐのかと想像するだけで、唾液が溢れる。
始めのうちは淡々とした授業風景が流れ、教師役であるAV女優が生徒へ教える場面がうつる。良く見ていると、俺たちの英語を担当する若い女教師と顔が似ていた。ああ、だから、人気があるのかということを、俺はどこかで冷静に分析しながら、ビデオ画面を食い入るように見ていた。
すると、女教師が生徒に襲われた。「止めなさい」と支持する女教師の衣服を生徒は脱がしていく。無理矢理っぽいシチュエーションがさらに俺へ刺激を与えた。
あ――ヤバイ
と思ったら、立ち上がると勃起しているのがバレてしまうくらい、俺は興奮していた。女教師のまんこに生徒の指が入ってきている。
抜きたい。
抜きたくてたまらなかった。一人で見ていたら喜んで抜いていただろうに。及川がいるせいで抜けねぇ。お前、出ていけよ。お前がトイレで抜いてこい。お前も勃ってんだろう! と理不尽な怒りを及川へ向けながら、苛立っていると、及川がこちらを向いた。

「岩ちゃん、トイレ行ってきて良いよ」
「お前が行けよ」
「いやいや、俺より岩ちゃんの方が限界でしょう」

部活終わりの緩いジャージなのに、俺は服の上から見ても勃起しているのが分かった。対して及川は興奮しているようだが、まだ我慢できるといったものだ。

「ここで抜いても良いよ。立ち上がったら射精しちゃいそうじゃん岩ちゃん」

さすがにジャージについた精液の説明を親にするのって難しくない? と及川は提案してくる。
畜生。その通りだ。立ち上がったら射精する自信がある。

「お前、見るなよ」
「はいはい、見ないって」

及川の言葉を信じてオナニーを開始した。つ―か、アダルトビデオ見る前にてめぇが妙なこと言わなかったら、俺は普通に抜けただろうが! と怒りを爆発させながら、限界ぎりぎりの性器へ手を伸ばす。
我慢汁っていうの。射精を我慢していたお蔭で、粘着質のある液体がチンコを覆っていた。ぬるっとぬめっているチンコに俺は触れる。
いつもみたいに、義務的な作業をすれば良いだけだと、画面の中で喘ぎまくる女教師を見ながらオナニーに浸る。
裏筋をそう、指の腹で撫でてやって、亀頭を爪で引っ掻くような形で弄れば射精しやすい。俺の脳内で、女教師の中にチンコを入れる自分の姿が写る。

「へぇ、岩ちゃんってそうやってオナニーするんだ」
「ばっ! テメェなに見てんだ!」

見るなっつったろ――! 俺は殴ってやりたかったが、動き出した手は止まらない。上下に弄り、射精を誘引する。
及川はベッドに腰掛けオナニーする俺へ目線を釘づけにした。顔が近い。もうちょっとでご自慢の顔に俺のチンコが当たりそうだ。趣味悪いんだよ。クソッ。
見られてるってなると、さらに興奮してきた。変態か、俺は。

「及川っ――」
「ねぇ、岩ちゃん俺も興奮してきたんだけど抜いて良い?」
「勝手にしろよ!」

だから離れろって! もっと遠くでオナニーしろ! と怒鳴り、蹴り飛ばしてやりたかったが敵わず。あろうことか、下半身を丸出しにした及川はこちらへ向かってきた。なに考えて行動してんだテメェ。

「一緒に擦り合わせると気持ち良いんだって」
「知るか! 離れろ! おい、クズ川!! キモイからやめろ!」

罵声を浴びせるが及川は一向にひかない。
引けって。ここでユータンすれば拳骨で済ませてやる。
しかし、及川が俺のいうことを聞くはずもなく、にっこりと笑うと、シコっていた俺の手ごと包み込んだ。

「っ――」

今まで自分のペースでオナニー出来ていたのと違って、及川の手によって動かされ、限界だったチンコが翻弄される。

「ひぐ――おい、かわっ」

オナニーだって健全な中学一年生の平均値くらいしかしてこなかった俺は、急激な味わったことのない快楽に、双眸から生理的な涙がこぼれてしまった。屈辱で、腸が煮えくり返りそうなくらい恥ずかしいが、今の俺にそんな余裕はない。

「岩ちゃんったら泣いちゃって、可愛い――」

及川の息が俺の鼻にあたる。俺より少し身長が高い及川と距離が近い。
ヤバイ、チンコ死ぬ。
破裂する。

「っ――うっせ、は、やく、イけっ」
「もうちょっと堪能したいけど、俺も限界だし」

手を動かすスピードが増した。
あ! と恥ずかしい声が俺から漏れる。俺の手はもう握ってるだけだ。意思持たない。及川に操られるがままに射精した。

「っ―――ひっ」
「はぁ――はぁ。イったね岩ちゃん」

はは気持ち良かった! と言って伸びをした及川を見つめ、快楽の余韻にそのままベッドへ倒れ込んだ。

「気持ち良かったよね、岩ちゃん」
「死ね。カス、キモ」
「え――またしようよ」

動けるようになったら覚悟しておけ、あと、ぜって――しねぇ! と胸に誓ったが、その誓いは後日あっけなく破られてしまう。
快楽に負けたのだ。
岩ちゃんったら気持ち良いことに弱いよね―――と及川に言われるまでもなく、流されるがまま、関係を続けた俺はその自覚を強く胸に抱くようになる。

高校へと入学する頃には、及川にケツを掘られてしまったのだから、もう、笑うに笑えねぇ。


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