お嬢さんでいた罰


おれは、なに言ってんの。ついに頭がばかになっちゃったのクロ、と思った。クロは俺の腕を引っ張った。大きなクロの陰茎が顔が近づく。おれは目を瞑った。こわかった。すっかり逞しく成長してしまったクロの陰茎が。とても、おそろしかったのだ。

「嫌か? だったら良いけど」

クロはおれを引き剥がした。元居た位置に戻る。策略だ。クロの。すばらしい策略が身を顰め、おれに襲いかかってきているのがわかる。
おれが嫌なことはしない。クロは強引で自分勝手だけど、昔からおれが本当に嫌がることはしない奴だった。けど、クロは狡猾な人間でもあった。清いからだけじゃない。クロは脳内に張り巡らせた作戦のもと、動いているのだから。あがった、口角がその証拠だった。
おれから、してこい、と言っている。

おれは悔しかった。強制されないことが。言い訳の余地をクロがおれに残しておいてくれないことが。逆にここで選択肢を与えられ、おれは「もうクロなんかどうでも良いよ」と言ってさっきの女の子みたく、部屋の扉をばぁん! と開け飛び出すことが可能なのに。くすんだ足は動かない。上半身だけが、クロの均等にバランスが取れた筋肉に引き寄せられていくようだった。

「なに? してくれるのか。研磨」

耳にこびりつくほど優しい声だ。おれの頭を無遠慮に撫でる。デリカシーがない。過保護な手のひら。おれはゆっくりと舌先を伸ばした。当たり前だけどはじめて。おれは自分の自慰行為にもさして興味がないから、咥内に広がる咽返りそうな味に目を顰めた。

「噛むなよ」
「わかってるっ――黙ってれば」
「はいはい。お手柔らかに」

おれが触った瞬間から、膨れ上がったのを、おれの視界は見逃してくれなかった。
ねぇ、クロってもしかしなくても、おれのことが好きなんでしょうと、問い掛けたかった。どういう返事がくるかはわからない。「好きだよ」というだろうか。そう言ってくれたらクロはずっとおれの傍にいてくれるだろうか。胃の下を、針で突かれたような、泣くに泣けない痛みはおれの中から消え去っていくだろうか。

「っ――」

クロが喘ぎ声をだした。天井にまで登っていく声だ。おれはクロの亀頭に舌を這わせて攻めあげた。きっと、こういう方が気持ち良い。おれもここ、好き。ついでに尿道口も指先で抉る。くねくねと、脅えながらもおれの身体はクロへ快楽を与える為、必死に動いている。なんで、扉の前で戻らず、こんなことをしているんだろうか。おれには、おれの考えていることがわからない。謎だらけである。首を捻ってしまう。寂しいからって理由で、こんなこと、きっとしちゃいけない。
多分、だけど、クロはおれのこと好き。どうでも良くなくなったんじゃなかった。女の子といっぱい遊んでいたけど。最終的におれに元へ戻ってきてくれるみたい。おれが、こうやって、クロの陰茎を慰めている。クロはそれに興奮している。クロはおれとこういうことする関係になりたいんだ。
男女じゃないのに変なのっていう感情は、不思議と浮かんでこなかった。おれの中にいるクロだったら当然のように思えた。寧ろ、おれを愛しているクロで良かった、とすら思った。
じゃあ、おれは。
どういう、意味で、クロのことが好きなの。
こんな陰茎だって舐められて、射精された精液を飲み干すことが出来るのに。おれはクロのこと恋愛感情で見てない。寂しいから、こういうこと、しているだけだ。
クロは俺を押し倒す。さっきまで女と絡み合っていたベッドにおれの背中がつけられる。クロの匂いと違う人の匂いが交じり合っていて、不安定な気持ちになった。そう、けど、今のおれには、この不安定さがちょうど良かった。心の中に住んでいる、荒れ狂う波を、しわくちゃになったベッドシーツが表していた。


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