海だけがみていた

*少し捏造あり


夏は、嫌いだ。
暑いし、蝉はうるさいしといろいろ理由はあるが一番の理由は終戦記念の祭りがあることだ。
戦争に参加していなかったものにとっては、終戦はとても嬉しいことだけど、参加していたものにとっては、とても悲しい。
あの戦争で仲間がたくさん死んでいった。
お盆はまるで、死んでいった仲間が護ることの出来なかった俺を攻めに来ているかのように思えて、お盆が終わっても夏は外に出ることが出来ない。
夏は、怖い。
そんな俺は今日も布団をかぶり、自室でひきこもっている。
毎日、子どもたちは声を掛けてくれるけど、俺の身体は布団から動くことはない。
夏が終わってくれればここから出ることが出来るんだ。
今日はもう、葉月の最終日。

そんな、最終日に子どもたちではない他の声が聞こえた。

「銀さん、海行きませんか?」

そう、問いかけて来たのは俺の彼女の志村妙。
もし、今日が夏ではなかったら即答で“おう”と返事をしていただろう。
だけど、今日はまだ夏。外には出たくない。
俺はその問いに言葉を返さなかった。

「いい加減にしてください、銀さん!!」

妙はそう言うとガラリと扉を開け、布団をはがした。

「ひきこもってる理由なんて知りませんけど、子どもたちに悲しい想いさせないでくさい。ほら、行きますよ」

妙は無理やり俺の手を引き、歩き出した。
抵抗する暇もなく俺は外に連れ出された。
万事屋の階段を下りればタクシーが来ていて、妙は俺を引き連れタクシーに乗り込んだ。
タクシーに乗っている間、妙は何も言わないでずっと俺の手を握っていた・・・

たどり着いた場所は海だった。

「行きましょう、銀さん」

ふらつく俺の身体を支えながら、妙は砂浜に降りて行った。
久々に浴びる日差しはとてもきついけど、海は青々と光っていて、空は雲一つなくとても綺麗で・・・

砂浜の真ん中あたりまで来て、腰を降ろした。
妙はかわらず俺の手を握っている。

「銀さん、最近元気がなかったのはどうしてですか?私達じゃあ、頼りになりませんか?」
「・・・頼りにならないとかそういうことじゃない」
「でしたら話してみてください。そしたら、楽になるかもしれませんよ?」

ね?と俺の大好きな笑顔で笑った。
その笑顔に敵うわけはなく、俺はゆっくりと話した。

「戦争が終わってから、夏はダメなんだよ。子どもの頃は大好きだったんだぜ、夏」

食べ物おいしいし、花火綺麗だし・・・皆で過ごす夏が好きだった。
戦争中だって、少しの休息の間、線香花火をやったり西瓜食べたりしていた。
そんなことしなくなったのは戦争が終わってから。

「私も、夏は好きではないです。父上が亡くなった季節だから。でも、銀さんと同じ昔は好きだったんです。夏祭の日、綺麗な着物来て髪飾りつけてお祭りに行ったんですよ、新ちゃんと父上と。たくさんはしゃぎました。だから、また夏を楽しみたいんです。今度は銀さんと一緒に。だから、私と一緒に夏をまた楽しみませんか?」

妙はそう言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめ俯いた。
そのまま、砂浜に夏の単語を次々に書いていく・・・

「また、好きになれるかな・・・」

夏を嫌いなままで終わらせたくない、と思うのが本音。
大好きな甘みを夏祭で食べながら、色とりどりの花火を見たい。

「なれますよ、きっと。来年の夏、一緒に花火見に行きましょう?」
俯いていた顔を上げ、そう笑った。

「・・・そう、だな」

仲間を護れなかった俺が愛する人と幸せになるなんて死んでいった仲間たちはきっと許さないだろう。
だけど、許して欲しい。
これからは、死んでいった仲間を恐れて生きるのではなく、仲間の分も幸せに生きたいとそう思った。
それは、いけないことだろうか?

「なぁ、妙」
「何ですか?」
「今、すげぇ泣きたいんだけど泣いていい?」
「ふふ、許可なんてとらずに泣きたい時に泣いてください」

その妙の言葉を聞き終えると同時に、俺の瞳からは一粒、また一粒と涙が零れ落ちた。
そんな俺の唇に妙の唇が重なって・・・

海だけがみていた夏の終わり、夏を好きになろうとそう思いながら少ししょっぱいキスを交わした。








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