裸足で駆けるきみ 

暑い、暑い、夏の日の夜・・・
俺は一人、部屋に閉じこもっていた。
もう、ずいぶんと部屋の外に出ていない。
理由は簡単、自分のせいで誰かが傷つくのが嫌だから。
自分の隊のものと作戦を立てていて、ちょっと抜けて、帰ってきた時に聞いてしまったんだ。
中にいるものたちはまさか外に俺がいたなんて思いもしなかっただろう。

「なあなあ、最近の白夜叉やばくねぇか?」
「あー俺もそれ思ってた。天人を殺す時、すっげぇ楽しそうにしてるよな」
「天人ならまだしも人間だって同じように殺してるよな」
「俺らもいつ、殺されるかわかったもんじゃねぇぞ」
「あんな夜叉とよく一緒にいれるよな、桂さんたちは」
「信じられねぇよな・・・」
「どういう神経してんだか」
「桂さんたちも実は夜叉なんじゃねぇ?」
「おいおいやめろよ」

それからの会話はもう聞きたくなくて、俺はそのまま自室へと戻った。
それっきり外には出ていない。
何度も、桂たちが部屋の前まで来たけど、絶対に開けなかった。
俺はいくら悪口を言われたっていい。
そんなの生まれてきてからずっとだから慣れているし・・・
だけど、桂たちは違う。
あいつらは何もしていない。
俺のせいで、あいつらまで“夜叉”なんて言われるのは嫌で。
俺と一緒にいなければあいつらがそう言われることはないから。
だから俺はひきこもった。

そんな俺の部屋に今日も障子を叩く音が響いた。

「銀時、何があったか知らんがいい加減出てこい。もう、何日も食べていないだろ」

俺はその桂の言葉に返事は返さない。

「銀時の好きな饅頭買ってきたぜよ?」

いらない、いらない、いらない。
夜叉は食べたり、飲んだりなんてしてはいけないんだ。
俺は、桂たちの言葉が聞こえないように耳をふさいだほぼ同時だった。
障子がガタンと音を立てて倒れたのだ。
障子の前に置いといた布団や机も倒れてその中から見えたのはするどい刃だった。

「・・・高杉」

こんな無茶苦茶なことするのは高杉で、その顔は怒りに溢れていた。

「行くぞ、馬鹿」

高杉はそう言うと、無理やり俺の手を握り歩き出した。
だけど、数日間飲み食いしなかった俺の身体は思うように動かなくて・・・

「くっそ。坂本、その馬鹿背負え」
「わ、わかったぜよ」

坂本はわけがわからないようだったけど、高杉に言われるがまま俺のことを背負う。
俺も、状況についていけなくて抵抗する暇もなかった。
桂は深く溜息をついた。

高杉はどすどすと音を立てながら歩いて、坂本と桂はその後を追って・・・俺たちは、夜の外へと出た。

俺たちが寝泊まりしている寺からだいぶ離れてきて、匂ってきたのは塩の匂いだった。
だんだんと近づいてくるその匂いに加えて心地よい音が聞こえて来た・・・

・・・着いた場所は、夜の海だった

砂浜の真ん中あたりまで来て、高杉は立ち止まった。

「もう降ろしていいぜ坂本」

高杉のその言葉と共に、俺は砂浜に降ろされた。

「お前が部屋から出てこない理由なんてどうせくだらねぇことだったんだろ」

俺は、俯いた。

「銀時、話してみぃ。一人で抱え込むんじゃなか」
「坂本の言うとおりだ。何があった」

こいつらに黙るなんてことやっぱり出来るはずもなくて、俺はゆっくりとあの日のことを話始めた。
話しているうちに涙が流れてきて・・・

「俺のせいで、お前らが傷つくのなんていやだから・・・っ。俺はなれてるからどうだっていいけどっだから・・・」

涙声になって上手く言葉を紡ぐことが出来ない。
ぼろぼろと零れる俺の涙をぬぐいながら、桂はふっと笑った。

「やっぱりくだらないことだったな」
「予想通りだ」
「まったくじゃ」

3人は俺の前に腰を降ろしてそう言った。

「くだらなくなんかねぇよっ」
「くだらねぇよ。俺達がそんなことで傷つくわけねぇだろ」
「そうぜよ。そんなことで悩む銀を見てる方が傷つくぜよ」
「貴様のそういうところ昔から変わらんな」

桂はそう言って、頭を撫でてきた。
それは、昔俺が泣いたあとに松陽先生が必ずやってくれたこと。
そうすると自然と俺の涙は止まるんだ。

「銀時、もう、一人で抱え込むのはやめてくれ。何かあったらすぐに俺たちに相談しろ」
「うんっ」
「他の奴らが銀時のことを何と言おうとわしらは銀時のことをそがなふうに思っちょらんから、そのことしっかり覚えといて欲しいぜよ」
「うんっ」
「帰ったら、飯食って思いっきり飲めよ馬鹿」
「高杉、今日、俺のこと馬鹿馬鹿うるさい」
「馬鹿なお前がいけないんだよ馬鹿」
「あーもう、むかつくっ」

俺は立ち上がり草履をぬいで、海に向かって駆け出した。

「いきなり走るな馬鹿者!!」

俺は海のすぐそこまで来て立ち止まり、高杉たちの方を向いた。

「馬鹿馬鹿うるせぇんだよ、大好きだバカヤロー!!!!!!」

そう、恥ずかしいなんて思い全部捨てて叫んだ。
馬鹿って言い返したつもりだったけど、大好きがついては意味がない。
だけど、大好きでバカヤローな奴らなんだ。
だから、これでいい。

その後も無性に走りたい気分で、俺は砂浜を走り続けた。
走り続けて倒れた俺をまた坂本が背負って帰ったと次の日に聞かされて、また馬鹿にされたけどこんなに笑ったのは久しぶりで楽しかった。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -