砂浜に描いたLOVE

葉月の最終の日曜日、俺達は久々に会うことが出来た。
ここ最近、土方は仕事が忙しくて電話で話すことすらできなくて・・・。
それは、仕方がないことだけどやっぱりさびしいと思うわけで。
「明日会おう」とメールが来た時にはあまりのうれしさに涙が零れた。
会う日の前日の夜は楽しみすぎて、眠れなかった。
土方との待ち合わせ時間は朝の4時。
何でこんな早い時間に・・・。
まあ、土方と会えるならいつだっていいのだけど。
机にメモを残して、俺はそっと家を出た。

「よお」

待ち合わせ場所は駅前広場。
こんな時間に人はいるはずもなく、土方をすぐに見つけることが出来た。
久しぶりに見たその姿に我慢できなくて、駆け出した。

「走んなくたって俺は逃げねぇよ」
「んなのわかってる。」
「じゃあ、走んなよ」
「・・・・だって、久しぶりだったから」
「たっく可愛い奴。ほら、行くぞ」

土方はククッと笑って、俺に手を差し伸べて来た。
その手の温もりは久しぶりに会ったって何も変わっていなくて、大好きで、暖かく、優しい温もり。
ぎゅうと握り返せば、土方はよしよしと頭を撫でて来た。

「馬鹿にすんなっ」
「はいはい」

土方は完全に馬鹿にした顔でそう言って、切符を買い、ホームに入った。
まったく人がいあいホームは何だか静かで、怖い。

「なあ、こんな朝早くにどこに行くんだよ?」

ずっと気になっていた。
4時に待ち合わせなんて付き合い始めてからもちろん初めてのことで・・・。

「海。太陽が昇る時の海はすっげぇ綺麗なんだぜ。今日は、お前にどうしてもその光景を見せたくてな」

そう、土方が言った時に、電車が来て俺達は乗り込んだ。

「今日は・・・?」
「そう、今日は」

土方はそれっきり何も言わずに窓の外を眺め始めた。
俺も真似して窓の外を眺める。
そして、“今日は”という言葉について考え始めた。
今日、何かあったか?
土方の誕生日はもう過ぎたし、俺の誕生日はまだ。
俺達は付き合い初めてまだ1年もたってないから1周年記念とかではない。
考えても結局、わからず、ある駅で土方が立ち上がった。
どうやら、目的地についたみたいだ。

ホームを出て、暗闇の中を手を繋いで歩いて行く。
駅から少し離れると風に乗って、海の匂いが漂ってきた。
そして、見えて来たのは大きな、大きな、海だった・・・

「すっげぇ・・・」

思わず俺はまた駆け出した。
誰もいない海。
こんな海は初めてで、俺の胸はドキドキと鳴り響いた。
俺達は、海のすぐ近くまで行き、砂浜に腰を降ろした。
波の音が心地よくて、俺は土方の方に寄りかかった。

「なあ、何で今日はって言ったんだ?」

俺のその問いに土方は小さく笑ってから答えた。

「今日は、お前と初めて会った日だ。」
「あの、池田屋の日・・・?」
「そうだ。やっぱり覚えてなかったか」

土方と付き合ってからの日々は少ないけど、土方と出逢ってからの日々はもうだいぶたつわけで、逆に初めて会った日を覚えている方がすごいと思う。

「土方ってすげぇな。さすがにそこまで覚えてねぇや」
「そうだろうと思ったぜ」

俺と土方の出逢いは最悪な出逢い方で、まさかあの時は、土方とこんな関係になるなんて思いもしなかった。

「そろそろ太陽昇るな・・・」

前を見ながらそう言う土方を余所に俺は、砂浜にある文字を書き始めた。

「ん?何書いてんだ」

俺が書いた文字を見て、土方は嬉しそうに微笑んだ。
このまま土方に気づかれずに波に消されてしまえばいいと思っていたのに、見られてしまった俺の顔は真っ赤になってしまって・・・。

「愛してる」

土方はそう言うと俺の唇に自分のそれを重ねた。

俺達の初めてのキスを見ていたのは、昇ってきた太陽と砂浜に書かれた「LOVE」という文字だけだった・・・・。








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