優しさは君だけに

久々の土方とのデートで俺は朝からワクワクしていた。
だって、土方と最後にデートしたのはもう1ヶ月も前のこと。
最近、真選組は忙しかったみたいで俺はほったらかし。
だけど俺は文句を言わずに、土方のことを待った。
そして、こないだやっと”今度の日曜日逢おう”という誘いが来た。
本当に嬉しかったんだ。楽しいデートになる予定だった。
なのに...

プルルルルル

万事屋に電話の音が鳴り響いた。

「はい、万事屋です。」
「あー銀時か?」
「う、うん。今から出ようと思ったんだけどどうかした?」
「あーそう、か。悪ぃんだが今日無理になった。」
「えっ...」
「ほんっとうに悪ぃ。」

何度も、何度も土方は謝ってきた。
俺が聞きたいのは”悪ぃ”なんて言葉じゃない。
そんな言葉はいらない。

「...最低」
「あ?」
「最低だよ、土方君...っ!!」

自分でもわかるくらいに声が震えていた。

「土方君なんて大嫌い!!!」

バンッと無理矢理電話を切った。
そのまま俺は、万事屋を飛び出した。
ただ、ただ、走った。
いつの間にか青かった空はどんよりとした色になり、雨がしとしとと降り始めた。

ぽたり、

一粒また一粒と涙が零れ落ちた。
止めどなく溢れる涙。
その涙を隠すかのように雨が強く、降る。
雨は、容赦なく俺の体を濡らしていく。
でも、何も感じなかった。
このままどこかに消えてしまいたかった。
でも、そんなことしたら新八と神楽が心配するから。
だから、俺はとぼとぼと万事屋へ向かった。

「ただいま、」
「銀ちゃん!こんな雨の中どこに行ってたアルか!?」

そう、叫びながら神楽は俺に駆け寄ってきた。

「銀ちゃん、びしょ濡れネ。傘忘れたかアルか?」
「おぅ...」

そう、言い万事屋の中に足を踏み入れようとした時だった。

「銀ちゃん!?」

力が抜けて、俺はその場に倒れた。
体が熱い、頭が痛い、心が、痛い....

ひじ、かた――

意識が途切れる前に聞こえたのは神楽の泣きそうな声だった。




...とき

「銀時!!」

暗い闇の中に聞こえてきた愛しい人の声。
最低だって、大嫌いだって、言った俺にあなたは変わらぬ声色で俺の名前を呼んでくれている。
俺は重たい瞼をゆっくりと開けた。

「ひじ、かた...?」
「何やってんだよ。チャイナ娘がお前が倒れたって言って連絡してきたぞ。」
「そっか、でも、土方君用事あったんじゃないの?」
「お前が倒れたって聞いたからすっとんできたんだよ。俺が原因なんじゃねぇかって思ってよ。」

どうして、あんなひどいことを言ったのにあなたは俺に優しくするのですか?
俺だったら、自分のことを嫌いだ最低だ言った奴に優しくするなんて無理だ。

「土方君はやさしいねぇ....」

優しすぎるよ。

「この優しさはお前にだけだ。」

そう言って、土方はふわりと俺のことを抱き締めた。

「熱、うつっちゃうよ...」
「銀時の熱ならうつったって構わねぇよ。」
「土方君、変態...」

ボソッと俺はそう言った。

「何か言ったか?」
「何も言ってませーん! ね、お腹すいちゃった。」
「しょうがねぇからお粥作ってやるよ。」
「やったー!!」
「その代わり、お粥出来るまでは寝てろ。」

そう言って、土方は俺を布団に押し込み、立ち上がった。
そして、

「早く治せよ。治ったらデートしよう。」

そう言って、部屋を出て行った。
ああ、早く治さなければ。
ゆっくりと俺は夢の中へと落ちていった――


優しさは君だけに
(君以外にやさしくなんてしないよ。)









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