赤と青の夢現


家の中は質素で余計な物など何も無い様だった。ただ、酒瓶だけは大量に転がっている。
「来るなら手土産ぐらいもってこい」
と言いながらも、どこか懐かしそうな目を向けたレイリーが適当に座れとシャンクスを促した。シャンクスがそばにあった椅子に腰掛けるとすぐにビールが瓶で出てくる。
「酒、ダメになったんじゃないんですか?」
「あれは夜の分だ。昼の分はまだある」
言うとレイリーはビールを瓶のままあおった。シャンクスも同じ様に一口あおる。
「バギーは」
「部屋だろう」
「そうじゃなくて」
バギーは何故、あのままなんですか。
聞けば、さぁな、とレイリーが目を逸らした。
「レイリーさん!」
ダン、とビール瓶でテーブルを叩き付けた。レイリーはちらりとシャンクスを見るとひとつ息を漏らした。
「バギーは、身体のどこかが壊れちまったらしい」
あの時に。とレイリーがシャンクスを見遣る。
あの時、とはバギーが船を降りるきっかけとなった事件の事だろう。自然とシャンクスの眉間に皺が寄り、怒りでぎゅっと拳を握り込む。

食料調達の為に寄ったある島の港町で、買出しに出たシャンクスとバギーは敵船のクルーに襲われた。子供2人になるところを狙ったのであろう相手は数を頼みに襲ってくるとシャンクスを殴りつけバギーを連れ去っていった。帰りが遅いと心配になった仲間が放り出されたシャンクスを見つけたのは、敵船が出港した後で、事情を聞いた船長以下が追いかけ敵船に乗り込んで壊滅させ、バギーを連れ戻したのだが、何をされたのか戻ってきたバギーは憔悴しきっていてそのまま次に寄った島で船を降りてしまったのだ。否、降ろされた、といった方が正しいかもしれない。

「壊れたって、どこが?」
「さぁな。それは分からん。けど、お前ももういい年だ。アイツがただ殴る蹴るされただけじゃないことくらい、わかるだろう?」
「………」
あの時は、自分はまだ子供でバギーの憔悴の理由が分からなかった。
ただの暴行を受けただけではないのは何となく分かってはいたが、何をされたのかまでは分からなくて。
バギーは犯られたのだ。
それも、何人もの男に寄ってたかって、代わる代わるに。
誰に聞いたという事も無いが、後でそれが分かって、酷く悔しくてやり場の無い怒りが体中を駆け巡った。一緒に居たのに、後頭部を殴られて気絶していた自分が腹立たしくてどうしようもなくて。
その時負った傷が、身体の中にまだまだ残っているというのだろうか。それで、バギーはあのままの姿だとでも言うのか。
じっとレイリーを見詰めると、レイリーがふと遠くを見る様に視線を外した。



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