赤と青の夢現


バギー。
その名前が聞けただけで十分だった。
言われた通りまっすぐに通りを突っ切って丘の方へと進路を変えた。歩きながら、少し冷静になってくる。
あれは、もしかしたらバギーの子供なのかもしれない。そう考える方が自然な気がする。例え子供だとしても年齢が合わない様な気がするが、でも全く無いとも言い切れない。もしそうだとすると、それはそれで少し寂しいのではあるが。

行ってみると、丘の上にはぽつりと1軒家が建っていた。
ここだろうか。とりあえず窓の外から中をうかがってみるが、中に人が居る様な気配は感じられない。
すると。
「おいこら。てめぇ何人様ン家覗いてやがる」
という声が聞こえてきてヒクリと背中が引きつった。
誰かが近付いていたのに気付かなかったというのもあるが、その声がやはり嫌というほど聞き覚えのある声だったからだ。
そろり、振り返る。声の主はジロリとシャンクスを睨み付けていた。
その姿は、やはり見間違い様のないもので。
「…バギー…」
「あぁ?てめぇなんで俺様を…っ、まさか」
ギン、とシャンクスを睨みつけていた瞳が丸くなった。買物にでも行っていたのか手に持っていた酒瓶が滑り落ち、あたりに酒の匂いと瓶の破片が飛び散った。ジリ、と少年があとずさる。
コンプレックスだと言っていた赤い鼻も見上げる瞳も引き結んだ唇も、すべてシャンクスの記憶の中のバギー本人とつながる。髪はかなり伸びてひとつにまとめて結わえているが、違うのはそこだけで、身長も体格も何もかもがそのままだ。
「バギー、お前、なんで…?」
間違いない。バギー本人だ。それなのに、何故。
慌てて逃げようとするバギーの腕に手を伸ばした。顔を歪ませ、バギーはシャンクスから逃れようと腕を振り、足を上げる。
「はなせっ」
「バギー、俺だ、シャンクス…」
「知らないっ。お前なんか知らないっ」
叫ぶ様に言ったバギーの腕を強引に引き寄せた。抵抗されるにしても、未だ少年の様な体つきのバギーではシャンクスに敵うはずも無く、引き寄せられたバギーはビクリと身体を硬直させた。
「嫌だはなせぇっ」
「バギー落ち着け、俺は」
「手を放してやれ、小童」
突然の声にハッと頭を上げると、先ほど覗き込んでいた家の玄関に大きな男が立っていた。
「今は、赤髪と呼んだ方がいいか、シャンクス」
男は鼻で笑う様にそう言うと割れた酒瓶を拾い上げた。
「全く、今晩の酒をダメにしやがって」
「レイリーさん…」
現れた意外な人物に、僅かに緩んだシャンクスの手からバギーが抜け出し、レイリーの元に駆け寄った。レイリーは顔を上げるとシャンクスに顎を上げてみせる。
「入れ。話はそれからだ」
それだけ言うとレイリーはバギーを連れて家の中に入っていく。
シャンクスは麦わらをかぶり直すとレイリーの後に続いた。



→next