おいかけっこ

「赤と青の夢現」設定シャンバギ+ベン
※いろいろあってバギーさんの外見は14歳くらい(中身は四十路前)※
※そんでいろいろあってオーシャンロック号に乗ってます※


「ベン」
ノックも無しに開いた扉に、あぁ鍵掛けてなかったっけかとぼんやりと思った。見れば無造作に開いた扉の四角い枠の中にこの船の船長である赤髪の男が立っていて、どうかしたのかとベックマンは顔を上げる。
そうして自分を見遣る部屋の主を無視して、シャンクスは部屋のある一点を目の端に入れるとようやくベックマンを見据えた。
「バギー、見なかったか?」
どこ探しても居ないんだけどさー。
と、のんびりした口調で言われて、ベックマンは思わず鼻白んだ。しかし、それを悟られないようにして、さぁと首を捻る。
「お頭の方が良く知ってんじゃねぇのか?」
お前が何時も追いかけて連れまわしてるのに俺が知ってるワケねぇだろ。
と台詞以外の意味も嫌味の様に付け足して言えば、それがなぁ、とシャンクスは口元だけで笑った。
「格納庫にも厨房にも居なくてなぁ」
もちろん甲板にも居ないし、部屋にも居ない。探せるところは探したんだけど。
そう言って、シャンクスはまたちらりと部屋の一点に視線を投げる。それにベックマンはあぁそうとだけ返して。
「とにかく、俺は知らねぇよ」
「そっか」
「便所かなんかじゃねぇのか」
「そっか、便所は見てなかったな」
そっかそっかと1人納得したように顎を撫で頷くシャンクスに用が無いならさっさと出て行けと顎をしゃくる。しかしシャンクスはどこか楽しそうに顎を撫で扉の枠に寄りかかった。
「俺はまた格納庫から盗んだ宝石を勝手に元に戻したのに拗ねて隠れてんのかと思ったんだけどな」
にやにやと、確実に部屋の隅に向かって言った言葉にベックマンは軽く頭を押えた。
「…ンなコトやってんのかあいつは…」
「ま、手癖が悪いのは昔のまんまだからなァ」
お前も気を付けろよ。
ひらり手を振ると、バギーを探してくるとシャンクスは踵を返した。扉が閉まり、足音が離れてゆく。
足音が聞こえなくなり、完全に気配が消えてからごそりとベッドの下で何かが蠢いた。ごそごそと這い出してくる。
そこから這い出て来たのは、シャンクスが探していたバギーその人で、バギーはベッドの下から出てくると服に付いたほこりをぱたぱたと叩いた。口の中にまで入ったのかぺっぺと舌を出して鼻を擦る。
シャンクスが扉を開ける数分前。ちょっと隠れさせてくれと部屋に飛び込んできたバギーはベックマンの了承を聞く事も無くするりとベッドの下へと潜り込んだ。何なんだとベッドの下を覗き込むといいから黙ってろと言われ、肩をすくませたところで先ほどのシャンクスのご登場となるのだが。
「気づいてたぞ」
「そりゃそうだろ」
最初から分かってて見逃してんだあれは。
事も無げに言って、バギーは勝手にぼふりとベッドに腰掛ける。
シャンクスがバギーに気づいていながらワザと見逃したのは、ベックマンでも分かった事だけれど。
「じゃぁ最初から隠れる必要ねぇんじゃねぇか?」
「バカかお前。姿が見えてたら見逃し様がねぇだろーが」
確かに、言われる事は至極真っ当な事だ。でもそれならば、わざわざ自分の部屋である必要は無いはずだ。
そう言うと、あぁ、とバギーがくるり視線をさまよわせた。
「昔、副船長室に逃げるとアイツ追っかけて来られなかったからな」
それがまだ頭の中に残ってたみたいだ。
そう言って、邪魔して悪かったなと素直に頭を下げたバギーが立ち上がろうとするのを、知らず頭を押さえていた。
何だよ、と己を見上げる視線も片手で簡単に押えられる身体も幼く、昔、という単語がバギーの見た目に全くそぐわない。ふらりと立ち寄った島でどこからとも無くシャンクスが連れて来たこの少年は、子供のクセにどこか大人びていて、しかもどういうわけかシャンクスの昔馴染みでもあるらしい。どういう馴染みであったのかは知らないが。
「隠れてたいなら、好きなだけ居ればいい」
思わず言ってしまってから、ベックマンは立ち上がった。きょとんと見上げる頭を1度くしゃりと撫でてやる。
「っ、ガキ扱いしてんじゃねぇ」
「そりゃ悪かった」
言ってドアノブに手をかけ、少し考えて振り向いた。
「ところで、お前何でお頭から逃げてんだ?」
まさか本当に宝戻されて拗ねてんじゃねぇだろうな?
そう聞けば、バギーは今度こそ本当に視線を逸らして言いにくそうに口をもごもごとさせた。


部屋の外に出ると扉が何かにぶつかった。何だと思って見てみると、件のシャンクスが扉の前に座り込んでいる。
「何してんだお頭」
「見張ってんだよ」
手癖の悪いのが出無いように。
言ってニッと笑うシャンクスに、ベックマンが軽い溜め息を吐いた。
「…誰も取らねぇし」

つーかお頭、ほどほどにしといてやれよ…

ベックマンの深い溜め息は、潮風に乗って流れていった。



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シャンバギに巻き込まれる副船長もよろしいかと