Jea-lou-sy-?


 シャンクスは街だ、と聞いて勢い良く船を飛び出して来たはいいものの、肝心のシャンクスがどの辺りにいるのかという事を聞いてなかったバギーは、とりあえず街の中心部を歩いていた。さほど大きな街でも無いし、シャンクスがいそうな所というのも大体予想は出来るから見つけ出すのにそう時間はかからなさそうだが、バギーはシャンクスがいそうな場所を避けて細い路地に入った。
 体よくサボる事が出来たので、少し寄り道させてもらおう。
 そう舌を出して向かう先は先日見つけた小さな酒場。裏通りに有るからかこぢんまりとした店構えだが、しかし食事は結構美味かった。誰かさんがいない所為で朝からばたばたと走り回っていたから昼食もろくに食べてない。だから先ずは腹ごしらえだとバギーは足早にその酒場へと向かう。
 が、しかし。
「あ?」
 その途中で、見つけなくてもいいものを見つけてしまった。こっちではなく、向こうの大きな酒場の方だと思っていたのに。
バギーは咄嗟に壁影に隠れるとチッと舌を打った。このまま声をかけて連れ戻すか、それとも黙って見過ごすか。
 邪魔、もとい、連れて帰って来いと言われているからこのまま連れ帰るのが当然なのだけれど、しかしこんなにあっさり見つかってはせっかくサボれたのにすぐに戻る事になってしまう。全く何時も何時もタイミングが悪すぎるんだあのアホは。
むかっ腹を立てながら、そろり壁影から顔を出して様子を伺ってみる。シャンクスは向こうを向いていてまだこちらには気付いてないらく、振り向く気配を見せない。
 ならばとそろり移動しようとして、ふとシャンクスがひとりでは無い事に気がついた。
 イヤ、船長とサングラスの会話から街で何をしているのかって事は分かっていたけれど。
 けれど本当に、そんな事をしているとは。
 シャンクスの影になって良く見えないけれど、一緒にいるのはどう見ても女だ。シャンクスより少し背の低い、自分よりもいくらか年上の小奇麗な雰囲気の女が、ぽそぽそとシャンクスに何か話しかけている。シャンクスも頷きながら話を聞いている様で。
 ここからでは何を話しているのか聞こえないが、ずいぶんと親しげに見えない事もない。
 まぁ、出港前にわざわざ会いに来ているってことはそういう事なんだろうけれども。
「………」
 なんだかムカついてきた。
 自分が朝から走り回っている間、あのアホシャンクスは女と延々と別れの言葉を交わしていたのかと思うと腹の底がムカムカする。
 バギーが覗き見している間にも2人は顔を近づけ合い、何か囁き合っている。
「…っけ」
 船長には、邪魔して連れて帰って来いと言われたが、バギーはくるりと踵を返した。サボって食事してこようとも思ったけれど、そんな気は無くしてしまった。ただ何故か分からないが無性に腹が立って仕方が無い。
 むしゃくしゃしたままドスドスと歩き出したバギーの後ろで、じゃぁと言うシャンクスの声が聞こえた気がした。パタパタと走り去る軽い足音はきっと女が駆け去る音だろう。慌てて身を隠す場所を探すが、それより先に振り向いたシャンクスがバギーを見つけたらしく手を振ってきた。
「おーい、バギー」
 こんなトコで何してんだ。
 と、明るく言いながらシャンクスが駆け寄ってくる。バギーは振り向かず、前を向き直すとそのまま歩いて行く。
「バギーってば」
 待てよと叫ぶシャンクスを無視してバギーは走り出した。当然シャンクスが追いかけてくる。
「バギー、どうしたんだよ?」
 シャンクスの声を無視しながら駆けて行く。戦闘ではちょっとばかりシャンクスの方が上かもしれないが、足の速さではそう変わりはないはずだ。だからこちらが止まらなければ追いつかれもしないが、けれどこれではまるでシャンクスから逃げている様で、それはそれでまたムカつく。
 バギーは足を止め立ち止まった。逃げる事も隠れる事もない。自分は船長に言われてシャンクスを呼びに来たのだから。
 そうしてくるり振り向こうとしたバギーの背中にシャンクスが体当たりしてきた。勢いあまって2人してもつれながら倒れて地面に転がる。
「って何すんだ!」
「バギーが急に止まるからだろ」
 痛いと頭を擦るシャンクスは、まだバギーの上に乗ったまま。さっさと退けと蹴りあげると、シャンクスは唇を尖らせた。ゆっくりと立ち上がり、ぱたぱたと服に付いた埃を払う。
「ったく何だよ」
「それはこっちのセリフだハデバカが」
 バギーも立ち上がるとフンと鼻を鳴らした。
「この忙しい時に何やってんだテメェは」
 ケッと悪態を吐くバギーにシャンクスは一瞬きょとんと眼を丸める。そうしてあぁと息を吐くと目を逸らして頬をかいた。



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