奪わせないから宝なのだ



コツリと額が当り、唇が触れる直前でエースがふと口角を引き上げた。
「枯れかけた親父よりオレの方がいいぜ?」
「誰が枯れかけた親父だ」
地を這うような冷えた声と同時にひたりとエースの首筋に刃が当てられる。
見ればいつの間に現れたのかシャンクスが2人を見下ろしていた。
それにひやりと背筋に冷たいものが流れる。
シャンクスの表情は影になっていて見えないけれど、でも怒っているのは嫌でも分かった。
バギーは小さく舌を打つと退けとエースに目を向けた。
エースはちらりとバギーと、それからシャンクスを見遣ると不意に不敵な笑みを浮かべて。
「まっ、んっ」
するり首筋の剣を避けるとバギーのふっくらとした唇に己のそれを押し付けた。
「貴様ッ」
途端にスッと返った切っ先を跳ね除け床を蹴ったエースはふわりと跳躍すると来た時と同じ様に欄干に飛び乗った。
「…エース、悪戯が過ぎる様だな」
ゆらりとシャンクスの周りに立ち昇るのは覇気。それにエースはヘンと鼻を鳴らして。
「悪戯かどうか、バギーに聞いてみりゃいいさ」
なぁ、と目を細めるエースにヒクとシャンクスの表情が変わる。
「テメェハデにふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」
慌てて否定するが、それはシャンクスの耳には届いていないのか、シャンクスはじっとエースを睨み付けるだけだ。エースはエースで面白そうだと更に目を細め、バギーにひらりと手を振ってくる。
「今日は退散してやるけどな。じゃぁな、バギー。続きは次にしてやるよ」
言うとエースは身体を躍らせ、海面に浮かぶ小さなタグボートに飛び乗ると滑るように遠ざかっていく。
それを見送り、バギーはまた盛大な溜息を吐いた。シャンクスはまだじっと一点を見詰めている。
「バギー」
「…ンだよ」
そのシャンクスに呼ばれてバギーは片眉を吊り上げた。
ただでさえエースが来た後はいろいろと大変なのに、これではこの嫉妬深い男をなだめるのに骨が折れそうだ。
「あのな、シャンクス…」
ともかくも何か言わなくてはと言葉を探すが、その前にシャンクスの腕がバギーを捉え引き寄せられたかと思うと唇に噛みつかれる。
「っ、ん、ふっ」
口内を乱暴に蹂躙されシャンクスの胸を叩くが受け入れられず、そのままひょいと抱き上げられて。
「言い訳は後から聞いてやる」
低く耳元で囁く声に、どうせ聞く気はねぇんだろうがとバギーがシャンクスを睨み付けた。
「つか言い訳なんてねぇ」
「ほう。じゃぁ認めるのか?」
「違う。俺は何もしてねぇ」
「なら身体に聞くまでだな」
「だからそうじゃねっつってんだろーがっ」
人の話を聞け、と叫ぶバギーの口を封じて、シャンクスはさっさと船長室へと脚を向けていた。


end



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