奪わせないから宝なのだ

『宝は奪うためにある』の続編です


「よぉバギー!」
ひらり。声と共に水面近くから飛び上がってきたそれが、すとんと器用に船縁の手摺へと降り立った。きらきらと輝く太陽を背に受け、目深に被ったテンガロンがその顔に影を作っている。
「会いに来てやったぜ」
言いながらテンガロンを被り直して顔を上げれば、言われたバギーはちらりと目をくれただけで、直ぐに前を向き直す。
エースはそれに軽く肩を竦めてみせると手摺から甲板へと降り立ち、バギーの背後に近付いた。
「せっかく来てやったのにそんな顔すんなよ」
言ってぽすぽすと頭を撫でる手を、バギーの切り離された手首がぴしゃりと叩いた。
「誰も来いなんて言ってねぇ」
振り向きもせず言い放つとエースの手を払う。その上さっさと帰れと言いたげにシッシと手を振るバギーに、エースはふぅんと鼻を鳴らすとそれを気にした様子もなくバギーの前にしゃがみ込んだ。
「まったくツレねぇな、バギーちゃんは」
言ってツンと鼻先を突付くエースに、バギーは盛大な溜息を漏らした。
何がどうしたのかは知らないが、この若造は何故かバギーがお気に入りらしく、こうしてふらりと船に現れてはバギーにちょっかいをかけてくるのだ。最初はただ遊んでいるだけだろうと軽くあしらっていたのだけれど、こうも続くとさすがに呆れてくる。最近では3日に一度のペースで来るものだから相手をするのも正直面倒だ。というか、2番隊の隊長がこうも頻繁に船を抜けてひとりで他船に乗り込んでくるなんて白ひげのところも緩くなったもんだと思う。
鼻だけじゃなく頬まで突付き始めたエースの手を払うとバギーはケッと悪態を吐いた。
「ちゃんとか言うんじゃねぇ」
「じゃぁ赤っ鼻」
「テメェいい度胸だコラ」
ピキと頬を引きつらせついでにナイフを取り出すが、それより早くエースがその手を掴んだ。
すい、と音もなく近付く影に、あ、と思った時には引き寄せられ、くるりと視界が反転すると見上げた瞳には空の青が眩しく映った。
その空に、エースが割り込んでくる。
「いきなり物騒なもん出すなよ」
「テメェが言うか」
上から見下ろすエースの表情は影になっていてよく見えないけれど、でも至極楽しげにしている事は分かった。
まったく、こんな見た目はガキのおっさんにちょっかい出して一体何が楽しいんだか。
鼻白んだ目でエースを見上げ、とりあえずは甲板に押さえつけられた格好から抜け出そうともがいてみる。けれど悔しいかな力では到底敵うはずもなく、バギーはエースをギロリと睨み付けた。
「放せ」
「嫌だ」
しかしエースはにこりと笑い返してくる。
「なぁ、俺ントコ来いよ、バギー」
「断わる」
「ここで赤髪の相手してるよりずっといいぞ?」
そうだろ?
言ったエースの口元がニヤリと微笑んだ。
かと思えばその顔が近付いてくる。
「え、ちょ、待て…っ」
まっすぐ降りてくるエースに思い切り顔を逸らすと、首筋をぬるりとした感触が襲った。それにぶるりと背筋が震える。
「テメェ何してっ」
「何って、バギー舐めてンだけど?」
さらりと言ってさらに首筋を舐めるエースにアホかとバギーの声が飛ぶ。けれどエースはそれにニコリと笑っただけで。
「あぁこっちの方がよかったか?」
言いながらバギーの顎に手を掛けると固定して顔を近づけてきた。



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