甘えたいわけじゃない



「別にそんな事は」
「おっさん達って自慢話とか昔話ばっかりするからなー」
「………」
確かにそうだ。自分の知らない話ばかりで正直聞いていても詰まらなかった、というのはある。けれど、詰まらないと思ったのは正直それだけじゃない。
それは呆れるくらいにガキくさい理由からで。
「だからさ、俺と一緒に」
「だからってお前と一緒に飲む義理はねぇ」
馴れ馴れしく肩に回るシャンクスの手をパシリと叩くと、きょとんとするシャンクスを睨み付け踵を返す。
何だかもう飲む気分も失せてしまった。部屋に帰って寝てしまおう。
「おいバギー。どこ行くんだ」
「うっさい。ついて来るな」
追いかけて来る声を振り切り、ぽすりと頭を掴んだ手を振り解こうとして、それがシャンクスでは無い事にようやく気がついた。
慌てて振り返ると、エースが目を細めて見下ろしていて。
「なかなか戻って来ねぇと思ったら、どこまで酒取りに行くつもりだったんだ?」
「どこって…」
思わずジリと後ずさる。
エースの後ろではシャンクスが何かわめいているけどその声は当然バギーに届かない。
上目使いにエースを見上げると、何が可笑しいのかエースはフッと口角を持ち上げて微笑んだ。
「何が、可笑しいんだよ」
「拗ねるなって」
「拗ねてねぇし!」
図星をつかれカッとなって言い返すけれど、エースは楽しげに口角を持ち上げたままひょいとバギーを抱き上げた。
「俺はちゃんと、お前だけを見てるぜ?」
言って、ちゅと軽くバギーに口付ける。
そうだろう、と瞳を覗き込んでくるエースにバギーはまだ違うと唇を尖らせて。
「だから、酒を取りに行こうとだな、」
「わかったわかった」
よしよしとなだめるように頭を撫でたその手で首の後ろをついと掴んだ。自然と上る顎をぺろりと舐め、ぐちぐちと言い訳がましい唇をぱくりと覆い隠す。
「ふぅ、ん…」
くちゅり、舌が合わさるとバギーの腕がしがみ付くようにエースの首に回された。丹念に口内を這うエースをバギーが追いかけ吸い付いてくる。それに軽く歯をたて吸い上げればヒクとバギーの喉が鳴った。合わさった唇の間からとろりと唾液が顎を伝う。
「んぁ、エースぅ…」
とろんと自分を呼ぶ唇を一旦解放して首筋に顔を埋め、そこを強く吸い上げた。もっとと強請るように唇を尖らせるバギーのそれを吐息すら漏らさないよう塞いでしまえば、甘く啼く声が直接脳内に響いてくるようで心地良い。
「ぁう、ん、んぁ…んんン」
唇を塞ぎながらそっと身体をなぞれば抱き上げた身体がヒクンと震える。力の抜けた腕で、けれど必死にしがみ付くバギーが耐え切れず閉じた瞼を潤ませ始めたのを見計らってようやく唇を離した。
息を吐き、ぽすりとエースによりかかるバギーは、それでもジトリとエースを見上げてくる。
「…拗ねてねぇぞ」
「頑固だなお前」
「だって、エースが俺のことしか見てないの知ってるし…」
だから拗ねるのはお門違い。それは充分分かってるつもりだ。それに気持ちがついて行かない事はあっても。だから、拗ねてない。
「そうか」
ならいい、とエースは抱き上げたままのバギーを下ろそうとしたが、逆にバギーがぎゅうっとエースにしがみ付いてきた。
「でも!今はエースと一緒がいい…」
耳元で、消えそうな声でそれだけ言うとむっつりと黙り込む。それにエースは了解と答えて、そのまま寝室の方へと足を向けたのだった。



end



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