それはするりと指の間から溢れ出て

見習いシャンバギ。まだ青い2人。


「ようバギー!」
「うわっ」
ちゃんと食ってるか?なんて言いながら、大きな手がバギーの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。大した力も入っていないのだろうが、バギーは大げさに痛い触るなと騒いでみせるからついかまいたくなるのか、バギーの髪は大きな手にさらにぐしゃぐしゃにかき回されてしまう。
「ハデに痛ェんだよ!」
触るんじゃねぇ。
と頭を振って手を払い、逃れようとするけれど。でも倍近い体格差は安易にそれをさせてはくれないようで、結局相手の気の済むまで撫で回されるというのが何時ものパターンだ。
最後にくしゃりと髪を撫で、じゃぁなと手を振って食堂へと向かったその背中に覚えてろよと中指を突き立てるバギーを、シャンクスは横目で見遣った。
シャンクスもバギーも何故かよく頭を撫でられる。それは、この海賊団の最年少コンビだから、ということもあるかもしれない。子供扱いされているみたいであまり気分のよいものじゃないが、撫でられる理由はどうもそれだけじゃ無いらしい。船長なんかはちょうど良い位置に頭があるから、と言っていたし、撫でるというよりは先ほどバギーがされたみたいにぐしゃぐしゃにかき回されるから子供扱いというよりはからかわれている様なものだのだろうけれど。
吐けるだけの悪態を吐いた後でもバギーはまだ肩をいからせ、ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で乱暴に整え始めた。
「ったく、人を何だとおもってやがる!」
未だぶつぶつと文句を言いながら落ちた帽子を拾い上げる。
そんな風にムキになるから、からかわれるんだろ、とは思っていても、シャンクスは何も言わず黙ってみている。
くたった帽子の形を整え、すっぽりと頭を覆うそれを被れば、淡いブルーの髪が隠れてわずかに毛先が覗くだけになった。
それが少しもったいない気がして、シャンクスは自然と手を伸ばしていた。
被ったばかりの帽子を掴みずるりと頭から剥ぎ落とす。
「何すんだてめぇ!」
途端に振り向き掴みかかろうとするバギーの手を避けるとも無く避けると、目の前でブルーの髪がふわりと揺れた。

そういえば、誰かが言っていたような気がする。
バギーの髪って、柔らかくて触り心地が良いんだって。

思い出すともなく思い出したその事に、内心面白くなさげに唇を曲げ、けれど顔は無表情にシャンクスはそっとバギーの髪に触れた。
触れた途端、それはふわりと指に絡み付いて。
「うわー、何これ」
「何がだ!」
放せ派手ボケが。
そんなバギーの言葉も耳に入らず、ぐしゃぐしゃと髪を撫でる。
触れればさらさらと指の間を流れ、くるりと指に巻きついてくる。ふわりとやわらかく、かといって芯が無いわけでもなく、少しクセがあって、するりと手に馴染む様で。
確かに、触り心地がすごく良い。
「髪さらさらー。すげーやわらけー」
さらさらと手櫛で髪を撫でるシャンクスに、バギーが止めろと頭を振るけれど。
「俺好きだなーこれ」
さらさらで気持ちい。触っていたい。
至極嬉しそうに笑うシャンクスに、バギーがうっと言葉を詰まらせた。何だよ、と口の中で呟き思い出したように手を払う。
「触んじゃねぇよ」
フンと悪態を吐いて、帽子を取り返すと無造作に、目元まで隠れるくらいにすっぽりと被ってしまう。
「あ、もったいない」
「うるせぇ!」
もう一度触ろうとするシャンクスの手をぴしゃりと払い落とし、くるり背を向けるとドタドタと足音を響かせ船室の方へと向かう。
そのバギーが見えなくなって、シャンクスはそっと両手に目を落とした。
指の間にバギーの髪の感触が残っていて、思わずぎゅっと両手を握り締める。
あれにもう一度触れたいと、ぷくり湧き出る感情を抑え、シャンクスはパタパタとバギーの後を追っていった。




end



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