欲しいのはキミだけ

先天女バギー設定です
男女のそれっぽい表現がありますので苦手な方はご注意下さい


何気なく立ち寄った島は、気候も良くひどくのどかな島だった。
そののどかな雰囲気に当てられたのか、久々に羽を伸ばすかと普段のメイクを取りひとりで散策に出かけたバギーは、不意に呼び止められた声に足を止めた。
その声に反応して思わず振り返ったバギーの眉間にくっきりと皺が刻まれる。
奇遇だなぁ。と再会の喜びを顔一杯に浮かべるその人に無言でくるりと背を向けたのは、バギーにとって至極当然の事で。

「そんな顔すんなよ」
せっかく久しぶりに再会出来たんだからさ。
と、ジョッキを片手にニッと口角を吊り上げ、会えて嬉しいぜ、と目を細める上機嫌な顔に、バギーはハンと鼻を鳴らした。
「俺はハデに嬉しくねぇ」
そう悪態を吐いたももの、律儀にカンとジョッキをぶつけてくれるバギーにシャンクスは嬉しそうにニカリと笑う。
「遠慮すんなよ、俺のオゴリだ」
「当然だ」
憮然と言い捨て、バギーはジョッキを傾けた。
ビールの炭酸が程よく喉で弾け、乾いた喉にはそれはそれで心地よいが、正直大して美味くもない。こういうものは一緒に飲む相手が大事なんだなと改めて思う。
偶然の再会を喜ぶシャンクスに街中を散々追い掛け回された挙句、疲れたところを荷物を抱えるようひょいと抱えられ、了承も無く一緒に飲もうとこの酒場につれてこられたのだ。これでは美味い酒が飲めるはずもない。
中身を一気に飲み干してジョッキをカウンターに戻すと息を吐いた。はぁ、と漏れたため息にさえ、シャンクスはにこにこと笑っている。バーテンダーが空になったジョッキを下げ、透かさずに並々と注いだジョッキをバギーの目の前に置いた。それをまた一気に飲み干し、3杯目を飲み干したところで、バーテンが他の酒を作りましょうか、と笑顔をみせた。
「そうだな…」
少し考えて、ブランデーをロックで注文する。そこでようやくちらりとシャンクスに目をやれば、シャンクスは未だ1杯目のジョッキを手に持ったままにやにやとバギーを見詰ていて。
「何見てんだよ」
「バギーだな、って思ってな」
言って、ぐいっとジョッキをあおる。ようやく1杯目のジョッキを開けたシャンクスは、バーテンに彼女と同じものを、とリクエストした。琥珀色した液体が注がれたグラスがふたつ、それぞれの前に置かれる。
「再会を祝して」
「へいへい」
軽くグラスを掲げるシャンクスに、もう返事をするのも面倒だと適当に返してバギーはグラスに口をつけた。これは先程のビールと違い、少し美味い気がする。
一口喉に流し込めば、カランと氷が音を立てた。澄んだ音色に荒れていた気持ちが少し落ち着いたようだ。落ち着いてみれば、確かに再会が懐かしく無い事もない。若い、というよりは幼い頃共に過ごした時間は忘れたくても忘れられないくらいに濃密だったのだから。
もう一口喉に流し込みグラスを置くと、シャンクスがやはりじろじろとバギーを見詰ていて。
「そんな格好するんだなぁ」
と感心したように言う。
「あぁ?悪いかよ」
「いや、全然」
似合ってる。と目を細め、シャンクスがブランデーに口をつけた。ゴクリと喉が音を立てて上下する。
今日のバギーは普段の格好ではなく、所謂ドレス姿だった。華美なものではなく普段着程度ではあるが、淡い色をしたワンピースで、普段男勝りなバギーもたまにはこうした女らしい格好をしたくなる事もある。それに、メイクを取ってこの格好になれば、バギーである事を気付かれる事が少ないのだ。
それなのに。シャンクスにはすぐに見破られた。まぁ正面から見れば隠そうにも隠せない特徴があるので、変装も何もないのだけれど。
「さすがの俺でも最初は気がつかなかったよ」
「気付かなきゃ良かったのに」
「…かもな」
言ってブランデーを飲み干すと2杯目を注文する。訝しげに見遣るバギーには、フッと微笑ってみせて。
「だってほら、欲しくなっちまうだろ?」
じっと見詰る双眸にゆらりと影が光る。眉を寄せるバギーの手を取り、指先を唇に寄せた。ピクリ、とバギーの肩が揺れる。それに、シャンクスがニィと目元を歪めた。
「女が欲しいならその辺で買ってこいよ」
シャンクスならきっと選り取り緑だ。顔だけは良いから、その辺で黙って立ってるだけでも女はよってくるだろう。
そう言えば、そうでもないさ、とシャンクスが笑った。
「本当に欲しい女はなかなか手に入らないもんだ」
そうだろう、と意味深にちらりとバギーを見遣り、手のひらに軽く吸い付いた。
チクリと痛みが走り、赤い跡が残る。
「最初から、そのつもりだったんだろーが…」
チッと舌を打つバギーに、シャンクスは、さぁ?とおどけてみせた。



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