02


ものすごく理不尽な男の行動のおかげで、バギーは今至極不本意な場所にその身体を納めていた。
いわゆるところの、シャンクスの膝の上というやつだ。
尻の下がどうも落ち着かないしどうにも居心地が悪いから早々に退散したいのだが、如何せんがっしりと腰に回った腕がそれを阻止している。たかが腕一本で身動きがとれなくなることがこの上なく腹立たしくてバギーはあからさまに悪態を吐いた。しかしこの腕の持ち主はバギーの悪態など何処吹く風で、ちらり見上げたバギーに満面の笑顔を見せたりするものだから性質が悪い。

「放せハデバカ」

一応言ってはみるものの、ダメだとあっさり却下され、あろうことか、お前の指定席はここだからここ以外のところに座るなとまで言い出す始末。
さすがに呆れたため息を吐いて、バカだお前は大バカだと言ってやる。だがそれもシャンクスは気にした様子なくあぁそうだよと笑顔さえ浮かべて。

「俺はバギーの事になるととことんバカだからな」

なんて言われてはイヤミも通じない。
まともに付き合っていてはこっちが損をする。と、バギーは極力腰に回った腕も尻の下の太股も背中に感じる大きな胸板もここには無いものだと思い定める事にした。
そうして、意識を別のところに持っていこうと前を見つめる。
先ほどまで自分の居た場所では、相変わらずヤソップが何かゴソゴソと工具をいじっている。次は何を作るのか、ヤソップの手元を眺めながら、自分ならこうするとかこうしたら良いのじゃないかと考えたりして。
それにしても、ヤソップは器用だ。蟻の眉間に弾を命中させることが出来る、と言うのも大げさな表現じゃないのかもしれない。
じっと一点を見つめながらそんなことを考えているとごそりと背中で何かが動いた。それにも気づかず、バギーは目の前の事に夢中だ。
だが。

「!?」

不意に視界が暗くなった。
一瞬にして視界を遮ったそれが何か考える前に頭が引き寄せられ、耳たぶを何かが嬲った。ゾクリと背筋が震える。

「なーに見てンのかなぁ」

鼓膜を揺らすその声が耳元で低くささやく。ちゃかす様な軽い口調のクセに、その声は僅かな怒気を含んでいる様に聞こえて、バギーは小さく舌を打った。

「俺が何見ようと、勝手だろーが」

だからこの手をどけろと瞼にかかったシャンクスの手をどけようとするのだが、ダメだとまたシャンクスが耳元でささやいた。

「お前が見ていいのは俺だけだからな?」

ちゅ、とリップ音が耳元で響いて、バギーは思いきり眉を寄せた。


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2.他の男を見てんじゃねぇ、と視界を奪われ何も見えない


シャンさん腕失う前って事でひとつ…