赤と青の夢現


一瞬目を見開いたバギーに極上の笑顔で笑いかけると、素早く脾腹を打った。途端に瞳から生気が無くなりカクリと膝が折れる。
力の抜けた身体を抱きとめ、しゃがんで膝をつきその上に乗せた。顔を上げさせ、そろりと頬に触れる。
これだ。ずっと捜し求めていた唯一の物が、今ここにある。
指先を滑らせて目蓋から特徴的な鼻を撫で、唇だけは己の唇で触れた。軽く触れるだけのフレンチキスで顔を上げるとバギーを抱き上げる。
あの時は同じ位の体格だったが、いまはすっぽりと腕の中に納まってしまう。それがどういう事かは、今は考えない様にして、シャンクスは踵を返すと部屋を後にした。

階段を下りるとレイリーが待っていた。
しばらく睨みあう様に目を合わせ、シャンクスはレイリーの横を通り過ぎた。
「酒は要らん。もって帰れ」
通り過ぎたシャンクスを振り返りもせず、レイリーが言う。それにシャンクスは喉の奥をクッと鳴らした。
「残念ながら、両手がふさがってて持てないんで」
要らないなら捨ててください。勿体ないけですけど。
そう言うと、シャンクスも振り返りもせずレイリーの家を後にした。

ガン、と音が響いてシャンクスの持ってきた酒樽が真っ二つに割れた。どくどくと酒が流れ出す。
「あのクソガキがっ」
ぐっと握り締めた拳は、僅かに酒の匂いがした。


*****


「おい野郎ども、出るぞ!」
「へい、お頭!」
船に帰ると出港の準備はもう出来ていた。そのクルー達の動きは見事なもので、さすが俺の船、とシャンクスは1人笑みを深くする。
この自慢の船を、バギーは喜んでくれるだろうか。
それとも昔の様に自分とは正反対の事ばかり言ってくれるだろうか。
自分はあまり興味が無いが、バギーの好きなお宝も、あることはある。
「お頭、それは…?」
ベックマンが、シャンクスの抱えた子供を指差した。それにシャンクスはにっと笑ってやる。
「俺の、宝だ」
唯一の、ようやく手に入れた、最初で最後の宝。
愛しそうに見詰め眠る額にキスすると、船はゆっくりと港から離れていった。



end…?

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