赤と青の夢現


数日後、酒樽を抱えたシャンクスがレイリー達の家の前に立っていた。
一応礼儀として玄関ドアを2回ノックすると、出てきたレイリーにニカリと笑いかける。
「これはこの間割った酒の詫びと餞別」
言って樽をレイリーに押し付けるとシャンクスはずかずかと家の中に入ってきた。
「おい、バギーは」
「俺はもう見習いじゃねぇ。海賊なんだぜ?海賊は、欲しい宝を奪って行くもんだろ?レイリーさん?」
肩越しに振り返ったシャンクスがニヤリと口角を持ち上げそのまま2階へと上っていく。
レイリーはそれを、ただ息を吐いて見送った。

ギシギシとワザと音をさせて階段を上っていく。
まだ見習いだったあの頃。そのうち船を降りて1人立ちするんだと、狭い船室でお互いの夢を語っていたあの頃。
別々の船とお前は言ったけど、俺は最初から別の船に乗るつもりなんてなかった。
船を降りるとき、そう言うつもりだったんだ。
でも、それを言う前にお前は船を降ろされて、俺もお前を見失った。
階段を上りきり、迷う事なく左手のドアを開けた。ギ、という木の軋む音と共にドアを開けば、部屋の真ん中でバギーがじっとこちらを睨んでいて、シャンクスは不敵な笑みを口角にだけ浮かべると一歩バギーに近付いた。
バギーは無言で、シャンクスが来るのが分かっていた様に逃げる風でもなく、じっとシャンクスを睨み付けたままで。
すうっとシャンクスは息を吸い込んだ。
10年前、言えなかった言葉をようやく言える。
一緒に、行こう。
と。
でも、俺はもうあの頃の俺じゃない。
お前の大嫌いな、イヤな大人の男で海賊だから。

「お前を、連れて行く」

掴んだ手首は記憶よりも細く華奢で、それが自分だけが成長している証なのだと思うと、シャンクスは不意に泣きたいような気持ちになっていた。



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