赤と青の夢現


「そりゃもう、酷いもんだった」
レイリーはビールを飲み干すとぽつりとそう言った。

船長がバギーを見つけ出した時、バギーの上には男が跨ったままだった。
麻薬まがいの媚薬でバギーを混乱させていたらしく、それはヘタすると気がふれておかしくなるようなもので、連れ戻した後もしばらく熱が引かなかった。襲われた時の恐怖は船長やレイリーが近付くのも拒む程のもので、このまま船に乗せておくのはムリだと判断したのだ。気心の知れた女にバギーを託し、数年後に尋ねてみるとバギーはレイリーに対して恐怖心は見せなかったものの別れた時の姿のままで、レイリーもさすがに驚いた。犯された事への憎しみや嫌悪感、怒り、恐怖等が綯交ぜになって心身のバランスが崩れた結果ではないかということらしい。

「ま、そういう事だ」
黙っていたのは悪かったとも思ったが、お前の事だからバギーと一緒に船を降りると言いかねなかったからな。
そう言って、レイリーはシャンクスに目を向けた。
確かに、その時に知っていたら一緒に船を降りていただろう。バギーがそんな目に合うことになったのは、自分がバギーを守れなかったからなのだから。
バギーが船を降りた事を出港してから知って、当時はどうしようも無く荒れた。今でも教えてくれなかった船長達に少なからずの思いはある。けど、それは結果論で、再びバギーに会えた今となってはどうでも良い事のような気がする。
カタリ、と立ち上がりかけたシャンクスをレイリーが止めた。
「会ってやるな」
「どうしてですか?」
「アイツの気持ちの問題だ」
無表情に言ったレイリーにシャンクスは僅かに鼻白んだ。
バギーが誰とも会いたがらないであろう事は予想出来た。今の己の姿を一番見られたくないであろう相手が自分であるという事も、シャンクスが一番良く理解している。
でも、出会ってしまったのだ。
これは、どうしようもない現実。
「分かりました」
帽子をかぶり直すと、シャンクスは残ったビールを喉に流し込み立ち上がった。
「帰りますよ。今日は、ね」
言うとひらりと手を振り、外へ出る。カーテンの閉まった2階の窓を眺め、シャンクスは1人口元を歪めた。



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