女の子戦争
ぱらららら!とマシンガンの音が響く。
ここはどこかって?
自衛隊の演習場でもないし、戦場でもない。
驚いたことにここは教室なんだ。平凡で何の変哲もない。
いや、普通じゃないな。
マシンガンを片手に持った制服の少女が王者のように仁王立ちをしているし、周りには同じ制服を着た少女が血を流してばたばた倒れている。
理解不能なほどシュール。不謹慎だけど非現実的。
呑気な昼休みに何でこんなことになっているんだい?
ああ、そんな時に何故僕がここにいるのかって?
それは、あのマシンガン少女が僕の生徒で、この血みどろの戦場は僕が受け持ちの教室だからだよ。笑っちゃうだろ。
案の定がしゃん、と銃口が向けられたので、大人しく両手を上げた。
よく見ると真っ白なセーラー服は血と脳漿とよく分からないモノで汚れている。それなのに微かに甘い匂いがするから不思議だなあ。
「先生」
彼女は普段通りいつもの調子で僕に呼び掛けた。
それでも銃口は下ろしてくれなかったけど。
「や、やあ」
笑うしかない。僕はへらへら笑いながら答えた。
こんな惨劇が起きてるのに誰も気付かないのは何故だろう。
「先生どうしたの」
「どうしたのって」
「説得なんてしないでね。後一人であたしも死ぬの」
「そんな」
「無駄だからね」
彼女は無表情で無感情にそう言った。
焦りも悲しみも動揺も、何もなかった。
校則違反のスカート丈に真っ暗で重い黒髪。
普通の顔立ちに少し不健康な青白い肌。
生活態度も成績も、特に問題はなかった。
マシンガンさえなければ普通の女の子なのに。
「何で」
僕はちょっとだけ悲しくなった。だって彼女はただの女の子なのに。
「何でこんなこと」
さぞ情けない顔だっただろう。
でも彼女は眉一つ動かさず静かに語ってくれた。
「戦争だから」
ごつん、と鈍い音が響く。何かを蹴った音。
「女の子はいつも戦争なの。先生の見えない所でね」
ぎゅう、と圧迫する音が聞こえる。何かを踏みつける音。
「みんなみんな、あたしを笑ったから、復讐で反撃」
彼女の足元には仲が良かった筈の女子の頭があった。勿論、ぴくりとも動かない。
「先生もそうなんでしょ?笑わなくても特に思い入れはなくて、あたしのことなんか覚えてないんでしょ?」
違う、とは言えなかった。
彼女は問題のない生徒だったから。
問題のない生徒は、わんさかいるんだ。
加えて今時の子供はびっくりする程自己が希薄だ。
構わないで、というオーラを全身から発している。
僕だって好きで生徒と触れてる訳じゃないのに、大人は邪魔だとでも言っているんだろう。
「良い子ってさ、忘れられるんだ」
彼女の瞳には悲しい光。
角度のせいかもしれないけれど。
「あたし、もう疲れちゃった」
じゃきん、と彼女はマシンガンを構え直した。銃口は真っ直ぐ、僕の心臓へ。
「ばいばい、先生。地獄で会いましょう」
逃げる間もなく、彼女を止める間もなく。
僕の体には無数の弾丸が撃ち込まれた。体の中で何かが爆発したみたいだ。
後一人ってこういうことだったのか。
まさか銃殺されるとは思ってもみなかったよ。普通に老いて、畳の上で死ぬ夢は消えちゃったな。
彼女の泣き顔を視界の端に捉えながら、僕は多分死んだ。
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