ヨハンはかさかさに乾いたベッドの上で、胸を押さえて苦しんでいた。
外の世界は真っ暗な夜で、青白い病室の小さな机の上には書きかけの童話達が息をひそめていた。同じように机の上には薬の空き瓶が転がっていて、ヨハンはいつかその瓶いっぱいに砂糖菓子を詰めようと思っていたのだけれど、とても叶わないような気がしていた。

ヨハンは15歳で、夢見がちな少年だった。ポケットの中には、いつも書きかけのお話が入っていて、時折愛おしそうにそれを撫でた。
学校に通っていたけれど、病気になって行かなくなった。仕事をして稼いだお金は入院費用に消えていった。
ヨハンはくすんだ白の病室で毎日童話を書いた。
童話の中では、ヨハンはただの平凡な少年ではなく、ガニュメデスのような絶世の美少年だった。毎晩空に星が輝く時間になると、ヨハンは夢の中で魔法のような不思議な世界を駆け回った。
四頭立ての馬車で銀河を渡り、三日月に腰かけて、透き通った異形の友人達の戯れを眺めた。そこでヨハンが食べるのは星の欠片で、どんな飴玉よりもキラキラしていて、とろけるほど甘かった。
甘やかな夢幻、ふわふわとした空想。
もし、もし僕が死んだなら、この素敵な気持ちはどうなるのだろう。それを恐れずにはいられなかった。ヨハンはそれだけが気がかりだった。
神様、もし神様がいるのならば、僕を天国に連れて行かないでくれ。空想と幻想の世界にとどめておいてくれ。ヨハンは毎晩そう祈り、書きかけの童話にキスをして眠った。

しかし今夜、死は黒い虫の姿ですぐ側にいて、ヨハンは急に自分が死ぬような気がした。肺は穴が開いたように苦しくて、体が燃え上がる程熱くなった。
ああ。この夜の元、幻を泳ぐ詩人達。僕の物語を受け取ってくれ。僕は今夜きっと死んでしまうけれど、この美しく輝く不完全なお話には消えて欲しくない。僕のように、夜にしか生きられない友人よ、どうか物語を続けてくれ。
ヨハンは声にならない叫びをあげた。死はすぐそこまでやって来ていて、ヨハンの甘ったるい遺言をじっと聞いていた。
もうヨハンの体は動かなかったけれど、魂だけは夜空を巡り、枕に夢見る涙を落とす少年達をたくさん見つけた。星の欠片の物語。月の光の童話。夢の続きはそこここに散らばっていた。
祈りは確かに届いていて、ヨハンは幸せだった。そして最後に願いが叶うなら、僕の愛したもの、きらきらした星の世界で眠らせてくれ、と祈った。
黒い虫がぶうん、と低く唸って飛び立ち、ヨハンは死んだ。




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