その美しい少女が村を訪れた時、村は十一番目の月を迎えたばかりで、石造りの風車は相変わらず乾いた風に回っていた。
その頃丁度鉄道が開通したところで、毎日真っ黒な鉄の塊ががちゃがちゃとせわしなく、線路の上を走っていた。
少女は、雪みたいに白い髪と、森の奥深くにある泉のような薄青の目の色をしていた。
少女の顔はその昔村に災いを運んだ女と全く同じ、輝く花のかんばせであったが、村中を漂う汽車の煙に邪魔されて、気付く者は誰もいなかった。
その少女の名は、幸福といった。
幸福はたくさん金貨を持った旅行者だった。
儚く物静かな幸福は、日がな一日探し物をすると言って村中を歩き回っては、遅くに宿へ帰って来た。
上等な、流行りのドレスの裾を揺らして歩く幸福は、村の娘達の憧れになった。
しかし、突然現れたこの恐ろしく美しい少女は、まるで運命の如く、宿で働く若い男達の心を乱した。
遂にある夜、男達はこっそりと幸福の部屋へ忍び込んだ。
幸福は、無骨な男達の手が自分の体を撫でるのに気付かず眠ったままだったが、雲のようにふわふわの布の下を見た男達は、息を飲んで固まった。
人形みたいにつるつるした脚の付け根。
何も纏っていない股の間は、男達と同じだった。
幸福は、花のかんばせを持った少年であった。そして、二つの性の境界線にいる美しい怪物であった。
男達は皆、怯えて逃げ帰った。
幸福という名の怪物についての噂は風のように広まり、村人は幸福を気味悪がった。
しかし、たった一人だけ幸福と親しくなる者がいた。
それは、キャラメル色の髪と瞳をした美しい青年で、村長の一人息子だった。
二人はすぐに仲良くなり、劇に演じられるような似合いの、しかしひどく不道徳な、恋人同士になった。
村長は怒り狂って、青年を勘当してしまったので、青年と幸福は村を出て行くことになった。
出発の日、幸福は弾むような声で、
「探し物は見つかった!」
と叫ぶと、青年と一緒に汽車に乗って何処かに行ってしまった。
それから十年と少しが経った雪の日、青年と幸福は村に帰ってきた。
上等な服を着た青年は、同じく上等なドレスを着た、昔と何一つ変わらない幸福を大事そうに抱えていた。
青年は、がらがらに枯れた声で、
「幸福が死んだ!僕の幸福が死んでしまった!」
と叫ぶと、その場に倒れた。
幸福は確かに死んでいて、まるで等身大のビスクドールのようだった。
村人達は死んだ幸福を森の近くに捨てると、足早に逃げ帰った。
三日後、目を覚ました青年は、幸福を何処に葬ったのかを村人達に聞き歩いた。
若い男の一人がうっかり口を滑らし、それを聞いた青年はわあわあ叫びながら森へ駆けて行った。
やがて、一日経っても帰って来なかったので村人達が探しに行くと、青年は雪にまみれた幸福の死体に頬擦りしながら死んでいた。
村人達は今度こそ恐ろしくなって、二人を棺に入れて葬ることにした。
別々の棺に入れようとしたが、何人かかっても二人を離せないので、大きめの棺に一緒に入れた。
斯くして、幸福と青年は森の入口に葬られた。
墓に名前が刻まれることなく、幸福の瞳の色と同じ薄青の石が填められた。
棺を埋める間、風も無いのに森の木々がざわめいていたが、呪いを忘れた人々は気付かなかった。
たった一人若い男だけが、木々の間に金色の髪が一瞬揺らめくのを見たが、鳥の鳴き声に気を取られて忘れてしまった。
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