秋が去って、風が冬を連れてきたその月に、美しい女が小さな村を訪れた。
その女は、暗く沈んだ冬の村には似合わない金色の髪と、遠い南の国の植物のような不思議な緑の目の色をしていた。
村の者達が名を問うと、女は静かに、旅人と名乗った。
旅人という女はたくさん金貨を持っていたので、村の外れの小さな家を買い、そこで暮らし始めた。
村人達は、珍しいものといったら丘のてっぺんにある大きな石造りの風車だけのこの小さな田舎の村へ、何故旅人はやって来たのか、と首を捻った。
しかし、旅人は穏やかで優しかったので、村人達も追い出すことはしなかった。
ただ、旅人は恐ろしく美しい女だったので、不道徳ながら真っ黒な闇の中、旅人の小さな家へ忍んで行く者もあった。
その時の旅人はいつも、寝台の上で、顔も名も知らない無骨な男の手が自分の寝間着をめくっていくのを、抵抗もせずに黙ってじっと見ていた。
それから幾年か後、旅人は子を身篭った。
父親は分からない。不義の子だった。
村の男達は気まずそうに互いの顔を見、どんな赤ん坊が産まれてくるのかと恐れた。
誰しもが罪を背負って産まれてくるであろう赤子に怯えてがたがたと震えた。
音の無い恐怖がこの素朴な村を駆け巡るのを嘲笑うように、旅人の腹は大きく膨れていき、美しい手に撫でられては時折水音を立てた。
村長はその不貞を憎み、旅人に幾らか金貨を与えて村の外へ追い出すことにした。
ちらちらと雪の舞う中、屈強な男達に引きずられた旅人は、金切り声で、
「十三年だ!十三年待っていろ!」
と叫ぶと、重たい腹を引きずって森へと消えた。
それから少し後、村人達は赤ん坊の泣き声と女の高笑いが森に谺するのを聞いた。
あの膨れた腹から産まれたものを、確かめに行こうとする者は誰もいなかった。
そして血を吐くような呪いの言葉の通り、旅人が消えた日から十三年後、奇妙な病が村を襲った。
子供も大人も、女も男も関係なく、皆腹が大きく膨れて苦しむ病だった。
どの患者の腹の中も水で満たされて、その姿はまるで十三年前の旅人のようだった。
一年と少しの間その病は村に居座り続け、最後に年老いた村長の命を奪って、静かに去って行った。
村長が死んで、葬式が行われた。
半分に減った村人達は皆、葬式に参列した。
葬式の途中、何処からともなく痩せっぽっちの美しい少女が現れた。
その顔は紛れもなく、旅人と同じ花のかんばせで、村人達は怯えながら少女を見つめた。
ただ、少女の髪は旅人とは違って、夜のように真っ黒だった。
少女は、小さな袋を棺の上に置くと、涙を一粒落として何処かへ行ってしまった。
途切れた葬式は何事もなかったかのようにまた進み、何処か遠くで悲しむように鐘が鳴った。
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