変態点
きゃーきゃー、と周りから聞こえる叫び声。
ここは午後の生物室。
テーブルの上には、蛙。
白い柔らかそうなお腹を見せてひっくり返っている。
「解剖バサミとピンセット、一人一つだからなー」
面倒そうな先生の声とは裏腹に、みんなは騒いでいる。
男子も女子も、気持ち悪がって叫ぶ子、ちょっと泣きそうな子、露骨に嫌がる子。
私は、何も感じない。
じゃあ彼女は?
ふらりと彼女を探すと、友達と一緒に騒いでいた。
女の子らしく、明るく可愛く。
テーブルの上には一匹の蛙。私のより一回り小さい気がした。
彼女はまだ一つも傷をつけていない。
柔らかそうな、お腹。滑らかな白。
ふと自分の手元に目を合わせると、私も蛙を切っていないことに気付いた。
薄いビニールの手袋をしたままそっとお腹を撫でる。
滑らかで、ひんやりとして、気持ちいい。
もし、これが彼女の肌だったなら。想像すると、背徳の匂いがする。
お腹や二の腕、太股の内側。彼女が隠したがるような場所はこんなに柔らかいんだろうか。
きっともっと温かで、滑らかで、芳しい。
ぷつり、とかみそりの刃を入れる。滑らかではないが、皮が切れてゆく。
彼女の肌だったら。
一生触れることのない、そんな幻想に想いをはせる。
ぷつ、ぷつ。
細胞の弾ける音が聞こえる。
私はおかしいんだろうか。女なのに彼女のことが好きなんて。
例えおかしいと言われてもどうしようもないのだけれど。
好きで好きで仕方がないのだから。
彼女の瞳が、唇が、肌が、指が、声が、腕が。
私の心をとらえて離さない。
蛙なんかじゃ彼女の代わりにもならないけど。
それでも彼女を想うとぞくぞくしてしまう。
この気持ちは変わらない。
それを確かめるように、私は彼女を見つめながら蛙にメスを突き立てた。
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