恋に季節は関係ないらしい。
春でもないのに廊下のあちこちで、人目も気にせずいちゃつくカップル。
お喋り。ボディタッチ。ほっぺにちゅー。
「うぎぐぐぐぐ」
「何だよ優斗」
「放課後だからってやっていいことと悪いことがある」
「あははー、まあね」
隣で鈴木はへらへら笑っているが、ぶっちゃけ笑いごとではない。
眺めているだけで結構なダメージなのだ。健全な男子高校生にとっては。
鈴木は全然気にしないが、俺は気になる。フツーの男子だから。
「……ああいうのさ」
「うん」
「恥ずかしくねーのかよ」
「何で?」
「だって……何かこう……恥を晒してる感じするし。むしろ恥部を露出みたいな?」
「例えが下品だなー」
「うっせー」
まあ俺達が何を言っても、ただのひがみにしか聞こえなくて。
でも、その光景はやっぱり少しだけ眩しいのだ。健全だから。
「うーん、盲目」
「は?」
「恋は盲目って言うじゃん」
「ん」
「だから、まあ本人達には恥ずかしいことをしている自覚がないんだろうな」
「ふーん」
「むしろ幸せのおすそわけだーみたいな?」
「何だそれ」
「俺もわかんねー」
くだらない。くだらない。
なにもかもが、くだらない。
ああ、あそこのふたりまたちゅーしてるよ。通算三回目。
ああ、くだらない。
くだら、ない。
「はっ」
知らぬ間に、俺が鈴木にキスされていたのもみんな、くだらないこと。
柔らかい感触。体温。ミントの香り。
「おまえ、なにして」
「んー、恋は盲目の訂正」
「じゃなくて」
「別にさ、特に意味なんてないんだよ多分」
鈴木はへらっと笑った。
「だってさー誰も見てないじゃん。俺達のこと」
「だから何だよ」
「つまりー、つまりー」
沈黙。
「やっぱよくわかんねー」
「なんなんだよ!」
「あ、わかった。盲目じゃなくて衝動?みたいな?」
盲目。衝動。欲望。
恋の根源。
こころの真ん中から、沸き上がるもの。
「うん、それだ。みんなのいちゃいちゃと、俺の今の行動の理由」
「……衝動?」
「そゆこと。したくなったからしただけさー、多分ね」
そう言って鈴木はにかっ、と明るく笑った。
え、それって遠回しの告白なの鈴木くん。
おかしな体験にくらくらしながら俺はそう思った。
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Thanks/痴児
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