君とラムネ

「夏ってさあ」
隣に座っている隆己が、間延びした声で言った。
陽射しは強く、風は無い。
後ろで回っている古い扇風機が、こんな日には意味をなさないくらい暑い。
唯一の救いは私達の素足を冷やす、おおきな盥に張られた水だ。
「カルピスに氷入れてさ、からからいう音と共にやって来る、って感じしない?」
隆己はそう言って、水泳の練習で日に焼けた真っ黒な顔で笑った。
「そうかなあ」
「そうだよ」
私はラムネ味のアイスキャンディーを食べながら、隆己はカルピスを飲み終えて、残った氷をかじりながら。

私達は少しの間、黙っていた。

「なあ、彩」
「ん、なに」

隆己は、目の前で咲く向日葵を眺めながら言った。
私も、同じように向日葵を眺めながら答えた。

「来年もまた、プール一緒に行こうな」
「え?」

私は思わず、隆己の顔を見た。
今日は、約四年ぶりに隆己に会って、久しぶりに市民プールで遊んだ。
もう隆己は私を忘れてると思ったから、その急な誘いが嬉しかった。
けれど、それは隆己が暇だったから私を誘ったんだと思っていた。
そこに何ら特別な感情は無く、ただ暇だっただけ。

「どうしたの、急に」
「いや、彩はまたこっち住むんだろ」
「まあね」
私は今日、四年ぶりに生まれ育った町へ帰って来た。
母が再婚したからだ。
「俺、また会えると思ってなかったからさ、何かこう嬉しくて」
「なにそれ、変なの」
内心とても嬉しかった。
けれど、そんなこと気取られないよう下を向いた。

私達は何も言わなかった。原付ののろのろしたエンジン音が通り過ぎていった。

「……うしっ!!駄菓子屋にアイス買いに行こうぜ!!」突然、隆己は強引に私の手を握って立ち上がった。
「ちょ、ちょっと!!」
そのまま、草が繁る庭を駆け出す。
私の前にいる隆己。四年前は私よりも背が低かったのに。
何だか不思議だ。
「あ、飛行機雲」
「……本当だ」
隆己の声に、上を見上げると青空に一筋白い雲が走っていた。
「絶対に来年も行こうな」
「……うん」

私の手が熱いのも、顔が火照るのも、きっと夏のせい。
夏はまだまだ終わらない。





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