真夜中午前3時。
携帯が鳴って突然の呼び出し。

差出人は木村。
内容は、「釣りに行こうぜ^^」。それだけ。

「……って今言うことか木村よ」

まだ暗い空の下で、俺は自転車片手に歩く羽目になった。寒い。
近所の堤防には赤茶けた髪の木村が座って、ぼんやりとへらへらと釣糸を垂らしていた。

「……おい。来てやったぞ」
「お、渡辺!これお前の竿な」
「俺別に釣り好きじゃないし」
「いいじゃんいいじゃん、たまには良いよ。釣り」
「だからそれは平日の深夜に言うことなのか」
「え、駄目か」

残念そうな顔をする木村。

おい、お前は俺のことを心配するとかはないのか。
明日平日だぞ。学校があるってことだぞ。

「なんだー、渡辺も釣り好きだと思ったのに」
「そういう問題じゃない」
「やだあ渡辺さん、趣味がないなんてつまらないにんげーん」
「黙れ」

……何か、こいつと話すの疲れる。

俺がおかしいのか?
俺が何か間違ってるのか?

誰か普通を教えてくれよ。

俺の葛藤なんて露知らず、木村は黙って釣糸を垂らしている。さっきから一時間は経ってるだろ、これ。

「飽きた、かも」
「は?」
「うん、俺、飽きたわ。帰るね」

木村は、突然釣竿を片付け始めた。片付ける時ばっか早い。

「じゃなくて!」
「ん?」
「いや、え、ていうか……はああああぁぁ!?」
「俺帰ってもっかい寝直すわ。だから今日遅刻ね」
「俺はどうなるんだよ!わざわざ来てやったんだぞ!?お前のメールで!」
「……何言ってんの?俺メールなんてしてないよ?」

ぷちっ。
何かが切れた。切れたらいけない所が切れた。

何が普通かわからない?
前言撤回。
こいつが異常。普通じゃない。

俺様が、普通だ。

「馬っ鹿……野郎おおおおぉぉッ!!」
「うわ、何だよ渡辺」
「こんな竿知るか!こんなもんなあ……おらぁッ!」
「あああああぁ!何すんだよ馬鹿!」

とりあえずこの釣竿さえ無ければこんなことにはならなかった。
だから川にぶん投げてやった。
ついでにその辺にあった餌も海にぶちまけてやった。ざまあ。

「お前のことなんか知るかばーかばーか!」
「渡辺のばかあああぁ!弁償しろよお!」

叫ぶ木村を放って、俺は自転車で逃げた。超ダッシュ。
昇った朝日が俺を讃えているかのようだった。
謎の達成感。あいつに一矢報いた感じ。

あいつのフリーダムをぶち壊してやった。
これであいつもさすがに懲りるだろう。

すごいぞ、すごいぞ俺……!やったぞ俺……!

俺は充実感に溢れていた。
これで木村も少しまともになると思ったんだ。

が、しかし。

「朝はごめんなー、渡辺」

眠気と戦いながら登校した俺に紙パックのジュースを渡して、いつものようにへらへらしている木村を見て、俺は自分の行動の無意味さを理解した。
そして、いつかこいつを殴ろうと思った。



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お題:渡辺
101114 眩暈さまに提出





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