椅子と眼鏡と
机の上に乗せた足の上、はらりと青い葉が落ちた。
「ふあああぁぁ……」
ああああ。眠い。暑い。
春眠不覚暁。
合ってるのだろうか。
俺、国語出来ないんだよな。
あの子はきっと分かるだろうな。
頭良いし。真面目だし。
ちょっと不思議ちゃんだけど。
聞いてみようか。
話したことないけど。
……いや、そもそも今は夏だった。
春眠とか聞いたら本物の馬鹿だと思われる所だった。危ねえ。
それに俺はあの子に嫌われてるんだったよ。
別に何もしてないのにな。
もしや男性不信なのか。
よく分かんないけど、俺怖がられてる気がする。怖くないのに。
……まあ、若気の至りってやつで、髪染めたりはしてるけど。
ついでにピアスもしてるけど。
……あの子真面目だからな。
それが嫌なのかもしれない。ていうか、そうだ。
ってことは、今の姿勢もよくないな。うん。
優等生はきっと机に足を乗せたりしない。ついでに椅子にもちゃんと座る。
よし、完了。
……何がだよ。
馬鹿か俺は。いや、馬鹿だ。
こんなことしたってあの子は俺の方に来る訳がない。
何と言っても、席が教室の端と端同士だからな。
しかも、向こうは避けてるからな……。
これでいくと、神様ってのは多分イジメっ子だ。
…………あれ?
……何か俺、あの子に恋してない?
今までの回想を総合するとそうだよね?
何か少女漫画みたいだったよね?
望み薄なのに?避けられてるのに?接点無いのに?話したこと無いのに?
うん、やっぱ気のせいだよな。絶対。
「あ」
丁度そんなことを考えた時。
俺の目の前を長い三つ編みが横切った。
洒落っ気のない黒いヘアゴム。腰まで届く髪。
あの子だ。
ていうか俺が阿呆みたいな声出したから、俺の方見てる。
やばい、やばいぞこれは。
何か喋らないと変態だと思われるかもしれない。
えーと、えーと……。
…………。
思いつかねえ!
初めての接触だろ俺!しっかりしろよ!
そ、そうだ、こういうときは何か誉めればいいんだよな……いや、何か違う気がする。
可愛いね?
いやいやいや、突然すぎるだろ。
ああああ、あの子が困った顔でこっち見てるどうしよう。
色白い。意外と目がぱっちりしてる。
……そういえば、眼鏡取ったらもっと可愛いのに勿体無いよな。
こんなでかいやつじゃなくてもっとオサレな……。
「……眼鏡」
「え?」
「め、眼鏡変えた?」
馬鹿だ……俺。
何で眼鏡なんだよ……。
多分すごい気持悪かったよ今の……顔とか……。
「よく……見てるんだね」
「へ?」
あれ?
あの子が俺に話してるよ?
「変えてないけど、なんか嬉しい」
「そ、そうかな」
「うん、ありがとう」
ありがとう。
そう言って笑ったあの子はとても可愛くて。
初めて見る笑顔にやられてしまった俺は、驚いて椅子ごと倒れてしまい、
今度からはちゃんと名前で呼んでみようと思った。
君の輝きに世界がほら、
(前言撤回します)
(これは、確かに恋でした)
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お題:君の輝きに世界がほら、
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