一週間にたった一日、しかも午前零時から三時まで。
その限られた僅かな時間だけ、彼女の瞳は色を変える。
まるで猫のように光る、エメラルド色になるのだ。

私は、それを見るのが大好きで彼女を夜の散歩に誘う。
彼女は承諾するけど、目的地である公園に向かうまでの間私たちは何も話さない。
ただひたすら静かに歩くだけだ。

彼女は夜の公園に着くと、おかっぱの髪を揺らしながら、上機嫌ではしゃぎ出す。

もうそんな子供でもないのに、と笑うと彼女は、そんなの関係ないよ、と言う。

そうして目一杯はしゃいだ後、彼女は夜空を眺める。

晴れていても、曇っていても彼女はそうする。
星が生きているのを眺めたいと言うのだ。

私は星の名前なんて分からないから、そんな彼女の瞳を眺めている。

不思議なことに、空模様によって彼女の瞳も色を変えるのだ。

晴れた夜の時は、星の光が映り煌めいて暖かな海のようである。
逆に曇った夜の時は、暗い夜空の色を写して宇宙のようである。

宝石のようにぎらぎらしない、びい玉のような透き通った美しさだ。

そのまま見ていると、本当に吸い込まれそうで少し怖い。

多分、この時の彼女はもう一つの世界を内包しているんだと思う。
本当は夜空の星ではなく、自分の中の世界を覗いているのだろう。
その瞳の色は、きっと扉から漏れ出る別世界の光なのだ。

時計の針が午前三時の少し前を指すと、彼女の瞳の表面はゆらゆらとゆらめき始める。
そして三時きっかりになると、波が引いていくように光が消えていくのだ。

何考えてたの、と私が聞くと決まって彼女は、秘密、とだけ答える。
そこで私たちは、互いに顔を見合わせていつも笑う。
そのやり取りがたまらなく、幸せなのである。

それからまた来たときのように、一言も喋らず帰るのだ。

一週間に一度だけ、だけど私はこの散歩が好きだ。
正直、夜遅いのは苦手で眠いし、親に隠れながら玄関を出るのが面倒だけど。

彼女が内なる世界を眺めるように、私も何処か異世界を見ているのだ。

それは翠玉の海で、川で、空で、宇宙。
透明で硬質な鉱石の世界。
手が届きそうで届かない、身近な異界。

そんな素敵な場所を見られるのなら、眠気なんて吹っ飛ぶよ。

次の散歩まで後七日。
ああ、待ち遠しい。

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100707 お題:翠玉
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