見知らぬ君へ///



「ジャネット・バレンタイン」
「カル・マーカス」
「オーラ・エドムント」
「ハインリッヒ・キリング」
「ヒーラー・ナイトライン」

ぶつぶつと名前を読み上げながら、紙へと写していく。食べるものは確保したし、当分はすることもなく暇だと、トトはこの世界の文字を覚えて遊んでいた。
いまの手ならば、そんなことだって簡単にできる。前の姿ではできなかったことだろう。

「きょじん の せいたい に つ… いて」

メモに残されていた文も何度も読んだ。この世界のありふれた常識については省略されていて、まだまだわからないことも多い。だが…どこかに人が住んでいることはよくわかった。壁内と壁外。そう、書かれている。ここは壁外と分類され、彼女たちが住んでいるのは壁内、と呼ばている。

「…ひと」

もしかして、そこに、自分を知る人がいるんじゃないか。そんな期待にも似たなにかがふつふつと沸き起こる。それは日増しに寂しさを募らせ、夢に変わっていった。

「…あいたい、なぁ」

その日、トトは持ち物を持てるだけ手に持った。隠れ家はそのままに、木から降りる。外は夜で、巨人たちの足音はどこからも聞こえなかった。
とことことサイズの合わない靴を履き、不器用に森を歩く。

「ナルガ いそう な もり だなぁ」

実際にはいないのだが、突然上空から現れては来ないかと、別の期待に胸が躍る。見知った生物は未だに出会えたことがない。ここが今まで生きていたところとは全く違う場所だと納得するには充分なほど時間が経った。ふぅ、とため息をつくころ、森から外へと出る。どこまでも続く広い平原。遠くには山がみえ、空には月が輝いていた。
地平線の向こう側。大きな動物にのって、彼らが帰っていくのを見たことがある。
次にこちらへ来ることがあるのなら…ここに荷物は置いておこう。

一番手前に出っ張っている木の根元に、今まで拾ったものを置く。
途中で摘んだ花をボロボロの布きれで包み、その上へと載せる。

「だれか きがつきます よ に」

そして、再び森の中へと帰っていった。
それからしばらく。
あの手土産は姿を消していたのだった。



mae  tugi
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