死する兵に///


「…うー…」

小さなペンダントを手に、トトはうんうんと一人唸っていた。それは先日、目の前で巨人に食われ死んだとある女性の持ち物だった。食われる直前、彼女と少しだけ会話をすることができたのだ。




「こんなところになんで…子供が…?」
「…!」

明るい茶色の髪の毛に、優しい緑の両目。ジャケットや装備は何度も見たことがある。ぎくりと肩を揺らしたトトを見て、その女性は両手に持っていた刃物をしまった。

「私はシルビア。えっと…あなたは?」
「え、っと、トト…」
「トト…ちゃんね」

懐からさっとメモを取り出して、さらさらと手早く記入していく。

「トトちゃんはなんでこんなところに?」
「きが、つ、たら…」
「気がついたらここに?じゃあ、えっと…きょ、巨人にはあった?」
「あた」

綺麗な形の眉が不信感からかぎゅっと寄った。トトがごくりと唾を飲む。

「…襲われなかった?」
「ん。」
「それは…なぜ?」
「わか、な…い」

ちらりとこちらに目を向けながら、なおも書き続ける。

「その服、どこから?」
「ひろ、た。しるびあ、おねえさん、と、おなじ」
「…えぇ。調査兵団の服ね。どこに落ちていたの?誰のものかわかる?」
「えっと、えっと…」

あっちのほう、かな、と指をむける。
シルビアがその指に釣られて、その方向を向いた。
それと同時だっただろうか。
その先から偶然にも、巨人が姿を見せたのだ。ひゅ、とシルビアが息を呑んだ。素早く身につけている装置を展開する。
だが、残念なことに、巨人の方が少し早い。どすどすと周囲の地面を揺らしながら近づいて、空に飛んだシルビアの胴体を捉えた。一瞬の出来事だった。

「!?」
「…あ」

ポケットに浅く入れられていただけのペンとメモ帳が地面へとこぼれ落ちた。
頭上からは彼女の悲痛な叫びが聞こえて来る。

「トト、ちゃ、たすけっ」

唯一自由に動かせる右手をこちらへと伸ばしている。だが、トトにはどうすることもできない。彼女のように、高く飛ぶことももはやできないし、彼女を助けられるだけのちからもない。
ふるふる、と首を横に振る。巨人は手に力を込めているが、まだ、シルビアは生きていた。二人の視線は揃いも揃って、トトに向いていたのだ。

「…――こ、れをっ、    にっ…」

その右手がかろうじて、自分の首元にあったペンダントを引きちぎる。やがて、ぱたぱたと赤い雫と共に、地面へと降ってきた。トトがどこか呆然とした様子でそれを掴み取る。

もう一度、トトはシルビアを見る。
すでにその手の中にシルビアの姿はなかった。




ペンダントの裏には文字が刻まれていた。見たことがない文字だ。
拾ったメモを開く。同じような文字があるが、やはり見たことがない。
だが、ありがたいことに件の質問について書いただろうページがすぐにわかった。

「…し、」
「る」
「…び、」
「…あ」
「が」
「ね」
「…と?」


シルビア・ガーネット。
ペンダントの裏にはそう…記されていた。



mae  tugi
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