遠い噂///
「巨大樹の魔物?」
「すごい噂になってますよ。」
「…どういうことだ」
「なんでも、あの近くには巨人と一緒に子供の姿をした悪魔がいるーとかそういう噂です。その悪魔は実は罠で、遭遇したら巨人に食われるかその悪魔に食われるかして死んじゃうらしいですよ」
「…バカバカしい」
ばさりとリヴァイは机の上へ書類を放り出した。だが、最近、巨大樹の森周辺で妙な影を見ただとかという報告が増えたことも事実だ。被害者の数が増えも減りもしないのもまた、事実。
「悪魔が持ち物を奪い去る!っていう噂もありますよね」
「持ち物?」
「兵長も見ませんでしたか?ほら、血痕や痕跡はあるのに、明らかに装備や持ち物が紛失してるっていう…」
「大方、身につけたまま食われたっていう見解で終わっただろうが」
もちろん、このどちらもが正しい。
巨人に食われた人物の持ち物が何も取り返せないなどというのは今に始まったことではない。だが、その兵士はなおも続けた。
「乱戦から命からがら抜け出した兵士が、次の壁外調査でその周囲の捜索したら、落ちてたはずのものが何もなかった、っていう噂も…」
「…」
そして、その噂に関しての報告も上がっているのだ。相変わらずの鋭い眼光でリヴァイはその兵士を睨みつけた。はっとして背筋を伸ばして、機嫌を損ねたかと怯えた状態で足早に立ち去る。一人だけになった執務室で、リヴァイは再び報告書を読み始めた。
「…悪魔、か」
「気になるかい、リヴァイ」
「…ノックしろノック」
「私たちちゃんとしたよ?リヴァイが聞いてなかっただけじゃない?」
入れ替わるようにして団長のエルヴィンと分隊長のハンジが姿を見せた。にこにこと楽しそうな表情は二人揃って変わらない。
「バカバカしいとしか言えん。だが…」
「あぁ、幾ら極限状態での見間違いだったとしても…紛失数が多すぎる」
「誰かがちょろまかすにしても価値がねぇもんばっかりだ。何かがいるってぇのは、あながちありえるかもしれねぇな」
「…そうだね。次は森の奥の方に調査範囲をずらすつもりなんだ。それでいいかな。もしかすると本当に悪魔がいるかもしれないしね!そうだったらそれはそれで面白いじゃないか!」
一人楽しげに声を上げるハンジにいつも通りな冷ややかな目線を投げかけてから、リヴァイはいま一度資料へと視線を落としたのだった。
mae ◎ tugi