夜に想うて恋焦がれ///

 遠くへ去っていく一団を見送った。小さな群れの後ろから、大きな大きな影が三つ四つとついていったのを見ながらふと思い出すことがあった。

 この世界ではなかなか見かけることがない大型モンスター。それから、例えば卵を持ったハンターたち。自分の卵を奪われたモンスターたちは破竹の勢いで彼らを追いかけて、その卵を取り返そうと躍起になるのだ。
 そしてそれは、どちらにとっても命懸けの追いかけっこであった。トトは地平線の向こう側に姿が消えていった彼らを見ながら、まるで似ていると考えていた。

 だがちがう。

 どん、と重い質量がそばを通り抜けていった感覚さえも無視して彼女は森へと踵を返す。ひらりとワンピースの裾が揺れた。

 ぬっと現れた大きな足に踏まれないように気をつけながら、彼女は器用にするすると木を登っていった。やわらかすぎる爪の使い方を忘れていたうちはなんどか剥がれかけて大変だったことを思い出す。皮膚がただの膜であることの面倒くささを認識しながら、怪我を増やさぬように注意を払ってねぐらへと潜り込んだ。

 巨人の姿を眺めながら、彼らが自分を見ない理由を考えた夜が何度かあった。

 大きな大きな大きな巨人たちは、その実、小さな小さな小さな人間を好んで食す。ここからして彼女にとって、巨大な隣人たちがモンスターでもなく、そもそも食物連鎖という生命の環から大きく乖離した異形の存在であった。
 トトは腹をすかせると、何かを食う。それは例えば木の実であったり、小動物であったり、それよりもっと大きな生物であることもある。時には昆虫や草でさえ噛み砕き養分とすることができた。もっと言ってしまえば、彼女は人でさえあまり抵抗なく咀嚼することができる。一時期はそういう生き物だったからである。

 だが巨人は異なった。単一の食物をただひたすらに追いかけ、ただひたすらに食い殺し、食い殺し、食い殺す。しかも食べたものを消化して吸収してもいない。やつらには排泄もなければ、おそらく代謝といった概念も薄い。
 ただ食い殺し、吐き捨てる。
 トトはその存在をあまり好いていなかった。

 何のために、あれは存在するのか。何のために人を喰らうのか。なぜそれらはトトを見ないのか。なぜ、どうして。 そしてここは、どこなのか。

 ぐるりと思考を巡らせながら、やがてトトは眠さに身をゆだねていく。ここまで彼女が答えの出ない謎に意識をあずけたのは随分と久しぶりのことであった。
 それはきっと今日、初めて近くで見た人を見たからだろう。一人や二人ではなく、ぞろりと列を組んだ人。
 彼らを見て、トトは風変わりな友人を思い出していた。志高く、命を捨てることとなろうとも抗い続ける一団の人々は、まるで似た目をしていたと思ったのだ。

 ごろりと寝返りを打ちながらトトは思い出す。

 生命が活気付いていた広大な世界のことを。彼女が知るのはその一角に過ぎなかったかもしれない。それでも、その世界は眩しいほどに輝いていた。
 煮えたぎる灼熱の地。久遠の氷が覆う極寒の世界。銀に瞬く山の上。鬱蒼と息づく神秘の森。忘れ去られど消えることはない孤高の塔。果の見えない大海原……。

 鮮やかな世界を夢の中で旅しながらトトは笑う。夢の世界ならば、彼女の背には友人たちがいるのだから。


 一夜が巡り、目覚めて思う。
 ふと窖の中に人の匂いが残っているという事実に、だ。おそらくは昨日訪れた人間たちにこの場所を見つけられたのだと理解する。胸が高鳴った。彼らは今一度ここを訪れるだろう。

 そうとすれば、きっと。懐かしささえ覚える鋭く、諦めを知らぬ眼を見ることが出来るだろうとトトは眠気まなこをこすった。
 周囲をすり抜けていく胡乱な目玉ではなく。彼女は生きるために生きる目を愛してやまなかった。

mae  tugi
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