誰も救ってなどくれやしない///


「ハン!?生きていたのかにゃ!?」
「にゃ、にゃ…た、ただいまにゃ…」

どうにか急ぎで山を降り、野をかけ、雪とは縁の遠のいた丘陵へとハンはたどり着いた。
この丘陵にこそ、ハンを含めたアイルーたちの小さな住処が存在していた。


帰ってきたハンに対し、村のアイルーたちはどこか困惑気味だった。
その空気に、ハンはしょんぼりと俯いた。


ハンが村を出たのはかれこれ一週間は前のこと。
仲間のために必要な物資を採取するために意気揚々と、旅に出た。

そして何とかたどり着いた一行の前に、巨大な姿が立ちふさがる。

ドスギアノスとフルフルと、そしてドドブランゴ。
なんの嫌がらせか知らないが、この三匹が極めて狭いエリアに密集してしまうという異例の自体に彼ら小さきアイルーたちは遭遇してしまった。


ハンは一目散に逃げ出した。


もともと、彼はすごく臆病な性格で、村の中でも有名だった。
仲間の静止の声さえ振り切って、雪山を走り抜ける。
そして、道を見失った。
吹雪が訪れてしまい、寒さに倒れふしたのが、数日前のこと。


対して、逃げ出したハンについていくことのなかった仲間たちはといえば…その後無事に目標を達成した。
しかしその後、彼らもまた吹雪によって帰らざるを得なかった。
吹雪だから仕方がない、と、彼らは山を降りていった。

帰ってきて、臆病ハンは吹雪で遭難してしまったよ、と彼らは告げた。
それはつまり、遠まわしに死んだ、と告げるようなものだった。




(そう告げられたのに。)
よれよれの状態で帰ってきたハンを見つけたアイルーは困惑した。
寄ってきた仲間たちも、生きていたのか、と安堵より先に同じような顔だった。
静かだったそこに、誰かが言った。

帰ってこなくてよかったのに、と。

ぎくりと身をこわばらせたハンだったが、誰一人としてその発言を咎める者はいなかった。
臆病で、なにもできない。
そんなハンの存在は、共同体の中においては弱者的立場であり、共同体に貢献しているものからすれば疎ましい以外の何者でもなかったのだ。
口にせずとも、誰もがそうだった。
一見朗らかな彼らも、ハンの目に余るダメっぷりにはほとほと愛想を尽かしていたのだ。


「…にゃ…」
「…どうするんだにゃ…ハン」
「にゃ、にゃにが?」


周りの仲間が自分を穀潰しと呼んでいたことくらい、ハンも知っていた。
だからこそ、帰っても歓迎されないかもしれないということもわかってはいた。しかし、それでも、まだ信じていたのだ。
生きて返った自分のことを、暖かく迎え入れてくれるのではないかという淡い淡い希望を。
誤魔化すように、へにゃりと引きつった笑顔を浮かべるハンに、「どうもこうもないにゃ」と共に雪山へと行った一匹が声を上げた。

「一人で逃げたにゃー」
「弱虫臆病で、なんの役にも立たないやつだにゃ」
「囮にもならないし…」
「お前の分のメシだってただじゃないにゃ」

次々と不満が投げかけられる。
それをじっと聞いていた、彼らのリーダーが、ぽん、とハンの肩を叩いた。

「ハン」
「……っ」
「わかってほしいにゃ」


遠まわしの、追放にほかならなかった。




mae  tugi
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